40万台もの端末を結ぶ巨大与信ネット
IPルーティング生かしカードの複数機能を同時処理
流通業界主導で作られた「OBN仕様」でセキュリティ確保


JCBは2月,新しいカード決済ネットワークを稼働させた。与信照会を現行の決済ネットから順次移行させ,将来的には約40万台を接続する。2003年1月に本格展開を始めるICカードを効率的に処理するために,IP-VPNを採用した。
(安井 晴海)

 JCBは2002年2月,クレジットカード決済ネットワーク「CARDNET」に,IP-VPNを使った新ネットワークを追加した。目的は,顧客サービスの向上と店舗側のコスト削減。クレジットカードのICカード化を目前に,カード会員と加盟店の増加を狙う。

 ネットワークの構築と運営は,JCBが中心となって95年3月に設立した日本カードネットワーク(JCN)が担当する。JCNはこれまで,専用線やフレーム・リレー・サービスでネットワークを構築。伝送手順にX.25を使ってCARDNETを運用してきた。

 今回,IPベースのCARDNETを追加したのは,2003年1月にクレジットカード業界を挙げて本格導入するICカードに対応するためである。

2003年1月のICカード化に欠かせない

 JCBは,IC化により各種ポイントの蓄積など,クレジットカード1枚に様々なアプリケーションを搭載していく戦略を持つ。これらのアプリケーションを短時間で処理するために,IPベースのカード決済ネットワークが不可欠だった。従来のCARDNETにつないでいる与信端末も順次移行し,将来的には約40万台を新ネットワークに接続する計画である。

 また,新ネットワークではアクセス・ポイント(AP)の数を大幅に増やした。これにより,従来はAPから遠かった加盟店の通信コストを下げられる。同時に,高い通信コストがネックで未加盟だった店舗も取り込める。

 さらに,新ネットワークではJCBの通信コストも大幅に低減する。従来のCARDNETは月間約800万円だったが,新ネットワークは月間400万円と半減する見通しである。

CAFIS端末の半分を新ネットに移行

 カード決済ネットワークとは,カード会社とクレジットカード加盟店を結び,クレジットカードの与信や売り上げ計上を処理するネットワークである。以前は,NTTデータが提供する「CAFIS」しかなかったが,95年に各カード・ブランド系の事業者が参入。現在,CARDNETとCAFISのほかに,ビザカード系の「GPネット」とマスターカード系の「MasterNet」がある。

 現在,与信端末が最も多いのはCAFISで,約45万台が稼働中。ただし,「このうち約20万台はJCBがコストを負担して設置したもの。これらを順次,新CARDNETに移行させる」(JCB市場開発部の山内研司部長代理)。新ネットへの移行で,CARDNETを業界トップに押し上げる。

 カード決済ネットワークは,例えばJCB系のネットワークでもビザカードやマスターカードで決済できる。JCBカードしか使えないと,加盟店の利便性が極端に低下するからだ。

 とはいえ,自社ブランドの与信端末を増やすことは,今後ますます重要になる。クレジットカードがIC化されることで様々なアプリケーションを追加できるようになり,柔軟な事業展開が可能になるからだ。このためJCBは,より多くの加盟店を開拓し,与信端末の増加に力を入れる。

センターの回線や機器はすべて2重化

 新しいCARDNETは,NTTPCコミュニケーションズのIP-VPNサービス「SuperOBN」を使って構築した。小型店舗に置いた与信端末「JET-2000」からのダイヤルアップ接続の運用を2月に開始。続いて,6月からは量販店や百貨店など大型店舗のPOS(販売時点情報管理)システムからの専用線接続の運用を開始する。
 カード決済ネットは,24時間365日,常に運用していなければならない。そこで,耐障害性を高めるために回線や通信機器はすべて2重化した。

 例えば,SuperOBNとCARDNETセンターの間は,4本の専用線で結んでいる。具体的には,ダイヤルアップ接続の端末を収容するために128kビット/秒の専用線を2本,専用線接続の端末を収容するために192kビット/秒の専用線を2本用意した。平常時は,端末側のあて先IPアドレス設定を分けることで負荷を分散。センター側の回線に障害が発生した際には,端末側であて先IPアドレスを自動的に変更して,通信断を防ぐ。

図 クレジットカード決済ネットワーク「CARDNET」の構成
2月に稼働を開始した新ネットワークは,NTTPCコミュニケーションズのIP-VPNサービス「SuperOBN」を採用した。小型店舗に設置したJET端末からはダイヤルアップで接続。大型店舗とは専用線やADSLで常時接続する。CARDNETのセンター側回線は,ダイヤルアップ接続用と専用線接続用に分け,さらにそれぞれを2重化。ルーターも常に予備機を用意して耐障害性を高めている。


※本記事は日経コミュニケーション2002年6月3日号からの抜粋です。 そのため本文は冒頭の部分のみ,図や表は一部割愛されていることをあらかじめご了承ください。全文は同号をご覧下さい。そのためにはバックナンバーとして同号だけご購入いただくか,日経コミュニケーションの定期購読をご利用ください。