ホンダは2001年10月,部品メーカー370社向けにBtoB(business to business)サイト「IMPACT-III」を全面稼働させた。アプリケーションごとにバラバラだった回線や端末を統合して,部品メーカーの負担を減らした。将来展開するSCM(supply chain management)の基盤とする。

(米田 正明)

IT部IT企画室の本間康夫情報システム基幹(右)と同室企画ブロックの小柳津泰主任

ホンダ「フィット」に採用されている1300cc i-DSIエンジンと「ツインプラグシステム」

「コストがどれだけ削減できたかなど,細かいことは把握していない。あえて言うとすれば,通信費が少し減った程度かな」――。10月に全面稼働した部品取引用のECサイト「IMPACT-III」の投資対効果に関して,IT部IT企画室の本間康夫情報システム主幹はこう答えた。

 IMPACT-IIIは,ホンダと部品メーカーとの受発注などのやり取りをWebに一本化したサイト。第一の狙いは,部品メーカーの負荷軽減にある。

SCMへの展開が最終目標

 冒頭の発言には,IMPACT-IIIの本質が込められている。通信コストや運用コスト削減など,目先の効果を上げるために構築したシステムではないということだ。

 ホンダが将来展開する予定のサプライチェーン・マネジメント(SCM)を支えるインフラ――。これがIMPACT-IIIが目指している姿である。

 SCMとは,部品の調達から生産,販売,物流までの工程をトータルで管理すること。各工程で情報を共有し,在庫の圧縮や,顧客に対する納車リードタイムを短縮する。「実現の時期は未定」(本間主幹)と言うものの,ホンダは今後,2次取引先や3次取引先などを含めたSCMを構築する方針である。その最初のターゲットとなったのが,部品メーカーとの通信基盤の整備だった。

 ただ,SCM実現までの道のりは平坦ではない。これまで部品メーカーとのやり取りの方法は,あまりにも原始的だったからだ。

各部門が部品メーカーと勝手に接続

 ホンダが取引している部品メーカーは全部で480社。そのうち370社が,以前からネットワークを使ってホンダと取引していた。10月にこの370社すべてとの取引をIMPACT-IIIに移行した。残りの110社はホンダとの取引量が少なく,電話やFAXでやり取りを済ませている。

 ホンダが部品メーカーとやり取りする主な業務は,(1)部品の発注指示,(2)部品仕様書や図面データ送受信,(3)品質管理情報の送受信――の三つ。

 IMPACT-III構築以前は,これらの業務ごとに別々のシステムがあり,通信回線もアプリケーションによってまちまちであった。各部門が勝手に取引先の部品メーカーとつないでいたからだ。高速ディジタル専用線やNTT東西地域会社のディジタルアクセスのほか,ダイヤルアップなどが通信手段として使われていた。

端末が多すぎて不便だった

 こうした従来のやり方には大きな問題があった。

 部品メーカー側で“多端末現象”を起こしていたのである。

 部品メーカーにとって,取引先の自動車メーカーはホンダだけではない。トヨタ自動車や日産自動車などほかの自動車メーカーとも取引があるのが普通だ。部品メーカーは,自動車メーカーと受発注データなどをやり取りする際に,そのメーカーにアクセスするための専用端末を使わざるを得ない。もちろん,回線も個別である。

 部品メーカーにとって頭が痛かったのは,同じ自動車メーカーの中でさえ,部門や業務が変わると別の端末が必要だったことだ。受発注アプリケーションは購買部,設計・図面データのやり取りは設計部門というように,部門単位で回線と端末を別々に使っていた。「部品メーカー側から,改善してほしいというクレームが来ていた」(本間主幹)のもうなずける。

1台の端末で全アプリを利用可能に

 IMPACT-IIIの導入で,この問題は解決した。部品メーカーとホンダとのやり取りをWebベースに一本化し,もはや部品メーカー側に,専用端末は不要になった。部品メーカー側にLANがあれば,LAN上の任意のブラウザ搭載パソコンからアクセスできる。業務ごとの専用ソフトも不要になった。

 現段階では,IMPACT-IIIはホンダではなく,部品メーカー側にメリットをもたらしている。ただし間接的にはホンダのメリットにもつながる。部品メーカーの使い勝手が良いシステムならば,「新しい部品メーカーと取引を始める際などに,契約がスムーズに進む」(本間主幹)からだ。また,「部品メーカー側の通信コストも下がるため,部品の単価が安くなる可能性もある」(同氏)。

※全文は,日経コミュニケーション2002年1月7日号をご覧下さい。

図 従来は業務ごとに専用端末と専用回線を使っていた
ホンダと部品メーカーのやり取りはこれまで,受発注や品質管理など業務単位に完全に分断されていた。このため,部品メーカーは,同じホンダとやり取りするにもかかわらず,各アプリケーションに応じて個別の端末を用意せざるを得なかった。さらに,回線も個別に引いていた。端末や通信回線のコストが高くなってしまうだけではなく,部品メーカー側の使い勝手も悪かった。

 本記事は日経コミュニケーションからの抜粋です。そのため図や表が一部割愛されていることをあらかじめご了承ください。