電気通信事業者協会(TCA)が発信者番号偽装(発番偽装)の対策ガイドラインを策定したことを7月1日に発表した(関連記事)。発番偽装とは,加入電話やISDN,携帯電話などの発信者番号通知機能を悪用し,着信側端末に任意の番号を表示させるというもの。2004年12月に発生した振り込め詐欺事件で発番偽装が使われた事実が明らかになり,通信事業者をはじめ業界が大騒ぎになった。

 TCAがこうした事実を重く受け止め,2005年2月に主要通信事業者10社以上で構成する「発信者電話番号偽装表示対策検討部会」を設置し,きちんと対策ガイドラインを策定したことは評価したい。だが肝心の対策の中身については非公開。「一切コメントできない」(TCA)と言う。その理由をTCAは,「対策を公表すると,それを逆手に取られて新たな手口を生み出しかねないから」と説明する。

 確かにその主張は理解できなくもない。だが筆者はこの決定に不満である。対策の詳細な手順を包み隠さず公にしてしまっては意味がないが,対策の大枠ぐらいは公表すべきだと考えるからだ。

 筆者も,以前はごく単純に発信者番号通知は信頼できるものと考えていた。しかしその浅はかな認識は,事件でもろくも崩れ去った。そこで日経コミュニケーションでは,4月15日号の誌面で「根が深い発番偽装問題,いまだ残る危険」と題したリポート記事を作成し,この問題を深く掘り下げた。このリポート記事はインターネット上では公開されていないため,詳細は本誌のバックナンバーなどをご覧いただきたいが,簡単にその内容を以下に紹介する。

 当該記事では,(1)事件は海外の「任意の発信者番号を付けられるサービス」が悪用されたと見られること,(2)発信者番号は「発信側事業者」でチェックするのが前提で「着信側事業者」はノーチェックであったこと(携帯電話事業者各社は3月に何らかのチェックをすると発表),(3)発信側事業者の番号チェックは“暗黙の了解”で義務ではないこと(実際には国内ではほとんどの事業者が行っている)──などを明らかにした。そして(1)国内事業者に関しては発信側の番号チェックを全事業者に義務化すべき,(2)義務化が困難な海外事業者からの電話はすべて「表示圏外」などと表示させるかユーザーが選択できるようにすべき──などを提言させていただいた。

 こうした経緯もあり,TCAの発番偽装対策には注目していたのだ。しかし出てきたものは「対策ガイドラインを作りました」という事実だけだった。

 TCAは,対策ガイドラインの目的の一つに「発信者番号表示サービスの信頼性を維持し,犯罪防止に役立て,利用者からの信頼に応えること」を掲げている。にもかかわらず中身が一切非公開だと言われると,いったいユーザーは何をもって信頼に足るサービスだと判断すれば良いのだろうか。

 筆者を含め,多くのユーザーの信頼を裏切ってしまった発信者番号通知機能。信頼回復のためにも,もう一歩の情報公開をTCAには望みたい。

(安井 晴海=日経コミュニケーション 副編集長)