5月30日~6月2日まで横浜で開催されているBROADBAND WORLD FORUM(BWF) ASIAの取材のため,今週はほとんど横浜に詰めている(関連記事関連記事関連記事,など)。世界の名だたる通信事業者や通信機器メーカーがこぞってトップクラスを送り込んでいるのであるから,我々取材陣にとってもめったにない貴重な機会なのである。フォーラムそれ自体の聴講はもちろん,要人とのインタビューも精力的に繰り広げる毎日だ。

 今回,特に顕著に感じられるのが,電話網のIP化への流れが急速に押し寄せていること。世界に先駆けて英BTがIP化を発表したのが昨年6月であるから(関連記事),それからたったの1年でその流れが本格的になってきたのには驚かされた。

 例えば韓国の固定通信トップであるKTは2010年までに今の電話網からIP網にすべて置き換える(関連記事)。韓国の場合,こういった先進的な動きには国家の後押しがあるのが通例。ひとたび動き出せばあっという間に進みだす力がある。また,BTの場合,電話網IP化後もアクセスはこれまで通りのアナログで続けるが,KTはブロードバンドを生かした新サービス投入にも積極的である。尹宗録新事業企画本部 本部長/専務に言わせると,「IP化後の電話局はデータ・センター」であり,そこに高速なコンピュータを置いてブロードバンドを「ユーザーにコンピューティング機能を提供する」ために使うのだという。そういったソリューションを提供できない通信事業者は「AT&Tのように消えてしまう」という言葉に同社の行動力の原点を見たような気がした。

 今回のフォーラムではKTだけでなくドイツ・テレコムも2012年にはIP網に移行すると明言。NTTも昨年11月にIP化宣言はしているが(関連記事),2010年までの第1ステップではFTTHユーザーだけが対象であり,既存電話網の置き換え時期は2010年までに決めると,今となっては若干歯切れの悪さを感じてしまう。

 さらに,日本が圧倒的に進んでいるFTTHの分野でも,今回は他国での動きが始まりつつあることを感じた。例えば米SBCコミュニケーションズはトリプルプレイのサービス「Project Lightspeed」用にFTTHやFTTN(fiber to the node。住宅近くまでファイバを引き,家庭へのアクセスはVDSLを使う)を提供し,KTも2006年からWDM PONという独自開発の技術を使ってFTTH導入を始める。WDM PONはデータのフレームで分配する他のPON技術と異なり,波長多重したデータを分解して,ユーザーに1波長をそのまま届ける。「無限の高速化が可能」(尹専務)なのだという。

 料金の低廉化やサービスの高速化競争で「ブロードバンド大国」となった日本であるが,うかうかしてはいられない。世界も急激に動いているのだ。

(松原 敦=日経コミュニケーション 副編集長)