京セラコミュニケーションシステム(KCCS)は,「愛・地球博」の会場内で,KDDIが開発したモバイル端末「愛・MATE」を使った移動体通信と固定通信の融合「FMC」(fixed mobile convergence)の実証実験を公開した(参照記事)
 今回,KCCSが実験したのは,(1)CDMA2000 1x EV-DOと無線LAN上でのシームレスなIP電話,(2)IEEE 802.11bの無線LANのマルチホップIP電話--の二つ。KCCSは,シームレスなハンドオーバーを実現するために,ミドルウエア「DIORAMA」(開発コード)を独自に開発した。開発の中心となったKCCS経営企画室研究部IT応用研究課責任者の宮広栄一氏にこれまでの経緯と今後の展開を聞いた。(聞き手は山根 小雪=日経コミュニケーション

--FMCを実現するミドルウエア「DIORAMA」の開発経緯を聞かせてほしい。
 第3世代携帯電話と無線LANの融合は,KDDIが1x EV-DOの試験サービスを開始した3年前に考え始めた。FMCを実現すべく,京セラのR&D部門と組んで,ミドルウエアの開発を始めた。3年前の段階では,シームレスなハンドオーバーの実現技術としてはモバイルIPが主流だった。だが,ハンドオーバーに5秒程度かかっていた。5秒という時間はデータ通信ならともかく,VoIPでは致命的。VoIPでの利用を想定し,1秒程度でのハンドオーバーの実現を目指して開発を始めた。
 DIORAMAはCDMA向けに開発した。W-CDMA向けに改良することも技術的には可能だが,現時点では考えていない。

--具体的には,どのような仕組みでシームレスなハンドオーバーを実現したのか。
 無線LANアクセス・ポイント配下の端末にはプライベート・アドレスを割り当てた。一方,1x EV-DO側の端末と無線LANアクセス・ポイントはグローバル・アドレスを利用する。例えば,無線LAN側から1x EV-DO側に移動した場合,移動した端末のアドレスは,プライベート・アドレスからグローバル・アドレスに変わることになる。変更後のアドレスに変更前のアドレスをカプセル化することで通信を継続する。

--実験では音声の遅延などを感じた。
 今回は時間が限られていたが,チューニングにもう少し時間をかければ音質はさらに向上する。また,実験で利用したKDDIの愛・MATEは,Windows Mobile 2003を搭載している。商用化する際には,携帯電話が搭載するリアルタイム系OS上で展開することになり,Windows Mobile 2003よりも音質,遅延などが向上するはず。

--QoS(quality of service)機能がないと,通信量が増えたときに音質が低下するのではないか。
 確かにそうだ。QoSはVoIPには欠かせない。1x EV-DOにはQoS機能を付加できいないが,1x EV-DOの進化形「CDMA2000 1x EV-DO Rev.A」はQoS機能を有している。
 QoS機能だけでなく,Rev.Aは通信速度もアップする。現行の下り最大2.4Mビット/秒,上り最大144kビット/秒から,下り最大3.1Mビット/秒,上り最大1.8Mビット/秒に高まる。上り帯域の拡張は通信品質の向上に大きく寄与するはずだ。

--携帯電話と無線LANのFMCでシームレスなハンドオーバーを実現しているサービスでは,英BTの「BT Fusion」(開発コードはBluephone)が思い浮かぶ。
 BT Fusionと大きく異なる点は,当社の仕組みはフルIPだということだ。BT Fusionは,BTの固定網とMVNOで利用する英ボーダフォンの移動網の位置情報データベースを相互接続で実現している。この仕組みは通信事業者同士でなければ使えない。
 当社がDIORAMAで提案するインテリジェンスな端末を使ったフルIPの仕組みならば,通信事業者だけでなくシステム・インテグレータもモバイル環境を自在に構築できる。ただし,こうしたモデルを実現するには,端末の管理や課金などを担う携帯電話事業者側の事業モデルの変更が不可欠なため,実現には時間がかかるかも知れない。ただ,携帯電話のデータ通信が定額になったことで,トラフィックの増加がすなわち収益の増加になるわけではなくなった。携帯電話事業者にとっても,増大するトラフィックを携帯電話網だけではまかない切れなくなり,固定網へも流し込むことが求められるはずだ。今後,移動と固定の融合は確実に展開されていくと予測している。

--DIORAMAを商用化する計画はあるのか。
 もちろんある。共同開発した京セラ端末だけでなく,将来的には他の携帯電話端末メーカーにも提供できるようにしたい。