アセロス・コミュニケーションズは無線LANチップなどの開発メーカー。同社の無線LANチップを採用した大手メーカー製ノート・パソコンも数多い。日本におけるIEEE 802.11aの標準規格「ARIB STD-T71」の主査だったアセロス・コミュニケーションズの大澤智喜代表取締役に,今回の改正と無線LANのトレンドを聞いた。(聞き手は大谷 晃司=日経コミュニケーション

――5月16日の電波法施行規則を一部改正する省令のポイントは。

 今回の改正では5.2GHz帯のチャンネルを欧米に合わせただけではなく,5.3GHz帯が新たに使えるようになった。元々5.3GHz帯は,世界的に無線LANで使う帯域としてITU-R(国際電気通信連合無線通信部門)が4年ごとに開催する無線通信の総合会議「2003年世界無線通信会議(WRC03)」で決められていた。

 ただし,5.3GHz帯は各国でレーダー通信に使っている周波数帯域で,干渉を避ける技術が必要だった。そこで,無線LANの基地局側でレーダー波をどう検出して干渉を回避するかが明確に定義された。こうして無線LANの帯域として世界共通で使えるようになった。既存の周波数利用設備と共存する技術が5GHz帯に取り入れられたことは,ワイヤレス・ブロードバンドの普及にとって重要なことだ。

――改正によってIEEE 802.11aのチャンネル数が4から8に増えた。その影響は。

 チャンネル数が増えることで,リアルタイム性が要求される無線IP電話やビデオ・ストリームなどQoS(quality of service)の保証が必要なアプリケーションが使いやすくなる。2.4GHz帯を使うIEEE802.11bでは,干渉を避けると実質3チャンネルしか使えない。IEEE 802.11bを同じ2.4GHz帯を使うIEEE 802.11gに移行して1チャンネルのスピードを上げればいいという話もあるが,干渉自体は避けられない。市場が立ち上がるときは3チャンネルでも十分足りるかもしれないが,数が増えれば干渉問題が出てくる。それを避けるにはチャンネル数を増やすことが不可欠だ。

 例えばニューヨークの市街地では,50チャンネル分ものアンテナが見える。これは,IEEE 802.11bで考えると少なくとも10チャンネル以上が同じチャンネルを使っていることになる。単純にチャンネル数が増えれば同じチャンネルを使う確率は当然低くなり,干渉も避けられることになる。

――無線IP電話機はIEEE 802.11bが主流だが。

 これは開発時に無線LANチップの選択肢が少なかったからだと考えられる。スループットは遅いより速い方が,チャンネル数は多い方がいいわけで,無線IP電話機もIEEE 802.11bからIEEE 802.11gやIEEE 802.11aに移行すると考えられる。

――WiMAXなどに取り組む可能性は。

 アセロス・コミュニケーションズは,エンドユーザーが簡単にネットワークに接続できる世界を目指している。現在,たまたまベストな標準がIEEE 802.11だと思っている。市場のニーズがあり,IEEE 802.16系のWiMAXが必要と判断されれば対応するだろう。だが,インフラには“慣性の法則”が働く。ユーザーは既存のインフラにくっつくものだ。そういう意味で,IEEE 802.11系の規格が今後のワイヤレス・ブロードバンドでも使われていくだろうと考えている。