通信事業者向けルーター・メーカーの米カスピアンネットワークスは2005年1月,次世代通信衛星「TSAT」(Transformational Satellite Communications System)に搭載する通信システムを共同開発する複数年契約を,米ノースロップ・グラマンと交わした。ノースロップ・グラマンは,米ボーイングと米ロッキードマーチンと並ぶ米国3大防衛関連企業の1社で,衛星はもちろん軍事製品を幅広く手がけている。TSATも米国防総省から開発を受託したものだ。“宇宙での使用に耐えられるIPルーター”の条件を,米カスピアンネットワークスのチーフ・アーキテクトのリアド・ハルタニ氏に聞いた。(聞き手は山根 小雪=日経コミュニケーション

──次世代通信衛星「TSAT」はどんな衛星なのか。

 地上にネットワークがない,または地上のネットワークを使いたくないところで使う軍事衛星だ。複数の衛星を打ち上げて地球をぐるりと取り囲み,打ち上げた衛星の間にクローズドなネットワークを構築する。地上との通信は,打ち上げた衛星の中の一部でだけ行うようだ。これらの通信で当社のルーターを使うことになる。私が知る範囲では,軍事用の衛星にルーターを積んだ例はまだない。

──衛星をつなぐネットワークとは,どんなものなのか。

 IPネットワークだ。米国では近年,軍事ネットワークもIPネットワークにする方向性が明らかになっている。地上のネットワークはもちろん,宇宙も例に漏れない。従来の衛星ネットワークはTDM(時分割多重)などで構築してきた。だが,エンドユーザー側のネットワークやアプリケーションの多くがIPになった今,当然の流れだ。

──ルーターはいつ宇宙へいくのか。

 2010年ころになるだろう。プロジェクトの目標は2012年に設定してある。開発期間を経て,2~3年をトライアルに当てる予定だ。
 地上で使っているルーターが,そのまま宇宙で使えるわけではない。衛星を打ち上げてから寿命を終えるまでの期間は数年,場合によっては10年以上になる。その間,決して壊れてはいけない。すべての制御が地上からできないといけないし,ソフトウエアのアップグレードも地上から実行できないといけない。すべてを完璧に仕上げるには,相当の研究開発期間と検証期間が必要になる。

──プロジェクトに参加するに当たって,何を評価されたのか。

 信頼性や拡張性という面では当社でなくてもいい。当社のルーターは,トラフィックの内容を理解して制御する「フローステート・ルーター」だ。フローステート・ルーターは,QoS(quality of service),ふくそう制御,セキュリティの確保を得意とする。衛星ネットワークでは,動画を使うアプリケーションが多くなるため,当社製品の特性とマッチした。

──今回の契約は経営面ではどういった意味を持つのか。

 巨大なプロジェクトなので大きな収益源になる。このプロジェクトに参加している期間は財務面での不安はない。通信事業者がベンチャー企業に対して感じる「5年後,10年後,この企業は存続していないのではないか」という不安を払拭できる。また,衛星プロジェクトに参加した実績は,高品質を証明するもの。通信事業者の導入の後押しをしてくれると期待している。
 実際,通信事業者への導入実績が増えてきた。ある欧米の通信事業者のサービス網では,稼働を開始して9カ月がたった。