中国が独シーメンスと共同開発した第3世代携帯電話(3G)技術「TD-SCDMA」の商用サービスが早ければ2005年にも始まる。中国ではTD-SCDMAに加え,W-CDMAとCDMA2000 1xEV-DO/1xEV-DVの3Gサービスも始まる予定だ。TD-SCDMAの権威の一人であり,TD-SCDMAの端末向けチップ(LSI)などを開発する重慶郵電学院のネェ・ノン院長にTD-SCDMAの現状や問題点を聞いた。(聞き手は武部 健一=日経コミュニケーション)

--TD-SCDMAはW-CDMAやCDMA2000と比べて技術的に成熟していないとの指摘がある。

 TD-SCDMAは後発なのでW-CDMAやCDMA2000より成熟していないのは事実だ。しかし,この2~3年でこれらの技術との距離は徐々に縮まっている。中国ではTD-SCDMAの(端末や基地局の供給体制など)産業的な枠組みも既にできている。端末や基地局も完成しており,現在は屋外の試験を実施している段階だ。

--TD-SCDMAは1.6MHzの幅に周波数を拡散して通信する仕様だ。だが,もっと広く拡散して,データ転送速度を上げることができたのではないか?

 1.6MHzにした理由は二つある。一つは仕様を策定した当時(1990年代末)の技術では1.6MHzが現実的だったこと。現在であれば,技術的にはもっと広く拡散できるだろう。もう一つは1.6MHzの幅しか必要としなければ,狭い周波数の空きでも携帯電話サービスができる。

--TD-SCDMAの商用化に向けた最大の課題は何だと考えるか。

 端末用のチップだ。テスト用のプロトタイプはできているが,商用のチップ開発が難航している。テスト用のチップも開発に成功しているのは展訊通信という会社だけ。展訊通信はシリコンバレーから戻ってきた中国人エンジニアが作った会社だ。もっとも,チップ開発にはコミット(フィンランド・ノキアや韓国・LG電子などが出資するジョイント・ベンチャー),T3G(中国・大唐移動通信設備や韓国・サムスン電子などが出資するジョイント・ベンチャー),重郵信科(重慶郵電学院の関連会社)といった中国企業や仏・伊のSTマイクロエレクトロニクスなどの会社も取り組んでいる。2004年内にはこれらの会社もTD-SCDMAの端末用チップを完成させるだろう。

--中国がTD-SCDMAにこだわるのは,「4G(第4世代携帯電話)へ向けた技術的な蓄積」という側面が強いとの声がある。

 まず,中国は電子技術の(市場が大きいだけの)「大国」ではなく「強国」になろうと考えている。2Gではコア技術に中国で開発したものはほとんどない。3GではW-CDMA,CDMA2000に比べて商用サービス面では遅れをとっているが,TD-SCDMAで少しでも多くのシェアを取り,世界へも広げていきたい。そして,4Gでは中国の技術が絶対的な市場のシェアを占めたいと考えている。TD-SCDMAをやれば4Gへの技術的な蓄積になるのは確かだろう。