米UTスターコムは,中国市場を中心とした事業展開で急成長している通信機器メーカー。PHSの基地局設備や端末の出荷台数は世界一。中国でのPHS通信設備の過半数は同社が手掛ける。最近では,第3世代携帯電話(3G)の通信設備にも注力している。

 同社のホン・リャン・ルー社長兼CEOに,13億の人口を背景に急拡大する中国におけるモバイル通信サービスの現状と今後の展望について聞いた。台湾生まれのホン社長は,小学校から高校までを日本で過ごした経歴を持つ。(聞き手は白井 良=日経コミュニケーション)

――中国でのモバイル通信サービスの現状を教えて欲しい。

 ちょっと信じられないかもしれないが,携帯電話は月600万の純増,PHSは月300万の純増ペースにある。たった1年間の増加数が,日本のモバイル通信サービスの全契約数と同じだ。
 携帯電話については,企業単位で契約する法人ユーザーと個人ユーザーの比率は3対1で,法人ユーザーの方が多い。通話時間が長く利益率の高い法人ユーザーは,通信事業者から見ると「逃げられたら困る」という考えがある。年間契約などの条件付きで,日本円で4~5万円もする最新端末を無料で配っている。
 個人ユーザーの多くは,人口の上位10%の高所得層だ。しかし最近では,プリペイド型を中心に高所得層以外にも携帯電話が普及しつつある。
 PHSもユーザー数が順調に増えている。サービス開始から4年間の累計で約3500万台。今年度末には6500万~7000万台へ倍増が予想されている。携帯電話とは異なり,法人ユーザーよりも個人ユーザーの方が多い。

――日本ではPHSはあまり元気がない。中国もいずれそうならないか。

 日本での“簡易型携帯電話”という使い方が間違っていたのだと思う。中国のPHSは,あくまでもコードレスの延長で,通話範囲を家の中から地域レベルに広げた,という位置付けだ。中国の場合,電話番号体系は固定電話と同じだし,自宅と同じ市外局番内でしか使えない。通話料も固定電話と同じ(3分2~3円程度)でととても安い。
 例えるならば,PHSはファーストフード,第二世代携帯電話(2G)はファミリーレストラン,今後出てくる3Gは高級フレンチレストランにあたる。すべてを一つの方式でまかなう必要はない。十分に共存していけるだろう。

――3G携帯電話の状況はどうか。

 2008年の北京オリンピックに間に合わせることを考えると,そろそろ出てくるはずだ。
 ただユーザーの視点から見ると,果たして中国で3Gが必要かどうかまだ分からない。速くて安くて良いサービスならば,3Gだろうと何だろうと関係ない。ユーザーがコンテンツ・サービスにお金を使いたがらないし,3Gゆえの差別化が見えてこないのだ。
 また端末コストの問題もある。中国だと通話料が月平均1000円を切っているので,販売店向けインセンティブの新規導入は難しい。そのため,平均収入からして端末は非常に割高になってしまう。
 ただ,3Gは避けては通れない。端末価格が下落して2Gと同じ値段になれば,一気に3Gの普及が進むだろう。中国の人口を考えると,彼らの選んだスタンダードが世界のスタンダードになる。

――モバイル通信設備市場での御社の強みは何か。

 当社の製品なら,2G,3G,PHSといった方式は違っても,バックボーンはすべてIPベースで構築できる点だ。基地局はIPネットワークに直接接続できて,通話の振り分けはソフトスイッチで行う。通信事業者は同じネットワークでサービスが展開できるので,余計な投資が必要ない。