新光証券や新生銀行,コニカミノルタグループなどのIP電話システムのインテグレーションを手がけたことで知られるネットマークス。2月5日に,住友電気工業を大株主とする兄弟会社のスターネットを買収することで合意した。3月上旬に,住友電気工業などから計40.8%の株式を譲り受ける。スターネットは,NTTなどの回線に付加価値を付けて販売する通信事業者。ネットマークスの長尾社長に買収の狙いを直撃した。(聞き手は杉山泰一=日経コミュニケーション)

--スターネットは,例えば複数事業者の回線を組み合わせ,最適な帯域を安く提供することが得意な事業者だ。インテグレータであるネットマークスが買収に動いた狙いはどこにあるのか。
 ネットマークスは,LANの構築は得意だが,通信サービスはあまり手がけていない。回線のリセールはしているが,年間売上高は2億円程度しかなかった。一方スターネットは,NTTグループなどの通信事業者から仕入れた回線に付加価値を付けて,販売するのが得意だ。回線事業だけで年間50億~60億円の売り上げがある。
 だから,両社が組めばLANからWANまでのワンストップの優れたソリューションを提供しやすくなる。ワンストップ・ソリューションへのニーズも高まっている。そこで,1年ほど前に私の方からスターネットや住友電気工業に話を持ちかけたというわけだ。

--ネットマークスが最近特に力を入れているIP電話システム事業への影響は?
 実は,そこが一番効果が大きい分野だ。世間では今,IP電話が大きな話題となっている。企業ニーズは,自営型IPセントレックスと事業者が提供するIPセントレックス・サービスの両方にある。両方を併用する企業もあるだろう。こうしたIP電話システムへの多様なニーズに応えるには,WANを構築するスキルが欠かせない。

--「スターネット」という社名を残したのはなぜか。
 実はネットマークスに吸収するというアイデアもあった。しかし,スターネットはNTTを民営化した86年から存在するユニークな会社。卸売り回線に付加価値を付けて再販する「VAN(value added network)事業者」は80年代に多数登場したが,大手で生き残っているのはスターネットだけなのだ。
 スターネットの成功の秘密は,住友電工以外の株主が(ダイキン工業やサントリー,武田薬品工業,ハウス食品などの)ユーザー企業で固められている点にある。スターネットはユーザーの声をよく聞くし,株主であるユーザーにも「この会社を育てよう」という意識がある。実際,株主企業はスターネットのサービスに満足している。だから,社名を残した。
 もちろん,買収後は営業活動を一緒にやるつもりだ。また,人事交流も考えている。

--買収による収益目標はどのくらいか。
 スターネットの年間売上高は2004年3月期の見込みで,約70億円になるだろう。ネットマークスの買収によって,売上高を少なくとも10億円は上積みしたい。
 現在,NTTコミュニケーションズをはじめ多くの通信事業者が,回線サービスだけではなく,LANのインテグレーション事業に進出し始めている。今回のネットマークスの動きは,その反対だ。これまでのところ,通信事業者の買収まで踏み切ったインテグレータはいないのではないか。ネットマークスが先駆けとなる。
 もっとも,既存の通信事業者と真っ向から戦うことになるとは思わない。ネットマークスやスターネットが回線を仕入れる先は彼らだし,逆に細かなインテグレーションが得意なのは我々だ。協業関係は築けるので,全体としてはプラスに働くだろう。

(写真撮影 丸毛 透)