NTTブロードバンドプラットフォーム(NTT-BP)はNTT東日本の子会社で,首都圏の私鉄駅構内などで公衆無線LANサービス「無線LAN倶楽部」を提供している。今年,同社は無線LANを利用したIP電話の試験サービスを開始するなど,無線LANサービスの多様化に力を入れる。インフラ整備は進むものの加入者が伸び悩む公衆無線LANサービス。2004年の見通しを,小林忠男社長に聞いた(聞き手は白井 良=日経コミュニケーション)。

――無線LANサービス利用の伸びは予定通りか。

 2003年末時点では本来計画していた加入者数の3~4割にとどまっている。だが月々の加入者の純増数は伸びている。特に2003年12月の加入者の純増数は,10月,11月に比べて3倍も伸びた。
 その理由は,無線LAN機能を標準搭載するソニーの「CLIE」や,ブラウジング機能の充実したシャープの「ザウルス」といったPDA(携帯情報端末)の新機種が,12月に発売されたからだと考えている。家電量販店の販売員の方にも無線LANサービスの知識がある人が増え,販売チャネルとして機能し始めたことも大きい。2つの相乗効果で大きく伸びたのだろう。
 サービス開始当初は,提供エリアが広がりさえすればユーザーも増えていくと思っていた。しかしユーザー増加のカギは,魅力的な端末と販売チャネルの整備にあった。これがサービス開始から1年2ヶ月経って分かったことだ。

――加入者数が計画値の3~4割とは伸び悩んでいるように思えるが。

 本格的な立ち上がりまでには時間がかかっても,その後は指数関数的に伸びていくと考えている。携帯電話でさえ爆発的な普及までには10年かかった。
 ADSLや光ファイバなどのブロードバンド回線の伸びもあって,家庭内で利用する無線LAN機器の販売台数が倍々ゲームで増えている。それに伴って,無線LAN機器の普及率も上がっていく。さらに2004年春以降は,価格の安いPDAや無線LAN機能内蔵のFOMA携帯電話端末も登場。今年は,無線LAN端末の台数が大きく増加する年になると期待している。
 無線LANサービスの提供エリアも広がる。無線LAN倶楽部は,今は私鉄4路線の駅と駅周辺のホテルやカフェで展開している。2004年春ぐらいまでに,さらに2,3路線増やす予定だ。
 端末台数の増加とサービス・エリアの拡大で,2004年は公衆無線LANサービスに追い風が吹く年になるだろう。無線LAN内蔵のFOMA端末については,NTTドコモと共同でサービスを提供する話を進めている。

――今後提供する新しいサービスはあるか。

 現在,無線LANを使ったIP電話の試験サービスをしている。ただ商用化となると,はっきりしたビジネスモデルがあるわけではない。使える場所が限定されており,どれだけ利用されるか疑問がある。試験サービスで需要を見てから,商用化するかどうか決める。
 ビジネス面以外にも,技術的な検証も行なう。特にインターネットを経由する場合は,品質保証が難しい。音声を圧縮して品質の劣化を回避したい。具体的には音声の符号化方式に,64kビット/秒で伝送する「G.711」ではなく,8kビット/秒で音声を伝送する「G.729A」を搭載する。

――公衆無線LANサービス以外にも業務を広げるつもりはあるか。

 無線LANを中心としたシステム・インテグレーション事業に進出する。NTT東日本と協力して,光ファイバと無線LANを組み合わせたソリューションを提供していきたい。例えば,イベント会場での無線LANスポットの構築などだ。基地局の設置方法,認証システムなどの構成方法,コンテンツの収集・提供方法のノウハウなどにこれまでの経験を生かしていく。