世界最大の携帯電話事業者グループを構成する英ボーダフォン。ドイツやイタリア,スペイン,米国,日本など計27カ国の事業者に出資している。ロンドン郊外にある本社で,グループ戦略部長のハーパー氏に欧州での第3世代携帯電話(3G)戦略やグループの強みなどを聞いた。(聞き手は杉山 泰一=日経コミュニケーション)

--ボーダフォン各社が採用するW-CDMA(欧州では「UMTS」と呼ぶ)方式の3Gサービスは,競合他社を含め各国で商用化が遅れている。欧州でサービスを始めるのはいつごろか。

 2004年4~5月に開始する計画だ。当初は,端末の種類や出荷台数を限定するだろう(注:英ボーダフォンのアラン・サリンCEOは10月中旬,ジュネーブで開催された展示会「Telecom 2003」の講演で,「2004年秋には端末が大量に出てくるだろう」とコメントした)。
 もっとも,3Gは単なる技術。ユーザーにとって重要なのはサービスだ。それゆえ,3Gサービスに(NTTドコモの「FOMA」のような)特定ブランド名をつけるつもりはない。
 欧州のボーダフォン各社の多くは既に,3Gの先駆けとなるサービス「Vodafone Live!」を昨秋から提供中である。これは,NTTドコモのiモードのように,メッセージ・サービスとコンテンツ配信サービスをパッケージ化したもの。ユーザー数は7月末に200万を超えた。3Gが商用化されれば,コンテンツを早くダウンロードできるようになり,使い勝手はもっと良くなる。
 ボーダフォンは,どの国でどれくらいコンテンツやメッセージ・サービスが使われているかについて,詳細なデータを持っている。これが,次の魅力的なサービスの開発につながる。

--欧州で提供されているiモードのユーザー数はまだ100万。一方,Vodafone Live!はサービス開始から半年強で200万突破と,大きな成功を収めている。その秘訣は?

 綿密なマーケット戦略を練ったことだ。ばらばらだったサービスをパッケージ化して,何ができるかをユーザーに分かりやすい形にした。専用端末を作り,コンテンツをリッチにした。欧州各国で大々的な広告活動もしている。
 SMS(ショートメッセージサービス)を高機能化し,テキストだけでなく写真も送れることなどを強くアピールした点も,成功につながった。欧州の携帯電話ユーザーの多くは,インターネット・メールよりもSMSに慣れている。操作を新たに覚えなくて済むことは,非常に重要だ。
 またVodafone Live!には,日本のJ-フォン(10月1日に社名を「ボーダフォン」に変更)からのアイデアも生きている。このように,ボーダフォン・グループは世界中から新サービス開発のアイデアを集めて,ベストな選択をできる強みがある。 

--個人の大半が携帯電話機を持つようになった今,法人市場の開拓が欠かせないように見える。ボーダフォン・グループの法人市場での強みはなにか?

 国際ローミングだ。欧州のビジネスマンは,各国を転々と移動する機会が多い。単に国際ローミングを可能にするだけでなく,ユーザーがどの国に行っても携帯電話の操作方法を変えずに済むことが大切である。例えばボーダフォン・ユーザーならどの国にいても,常に「121」とダイヤルすれば留守番電話メッセージを聞ける。
 また,データ通信サービスで国際ローミングができる点も強みだ。法人市場では携帯電話機とノート・パソコンを連携させて使うニーズが高い。既にPCカード型端末の提供も始めている。さらに今後,3Gサービスが始まれば,実効200kビット/秒程度のデータ通信ができるようになる。現在の欧州方式の携帯電話機は,実効速度が30kビット/秒くらいしかでない。

--データ伝送速度以外では,既存の携帯電話サービスと3Gサービスでどんな違いがあるのか。

 テレビ電話やビデオ・ストリーミングなど映像サービスを扱えることだ。
 ただし,映像サービスの普及には時間がかかる。英国では3月からハチソン3G UKが3Gサービスを開始し,映像サービスを売りにした。しかし,思ったほどユーザーを獲得できなかったため,6月に利用料の大幅値下げに踏み切っている。
 映像サービスのような新サービスを普及させるには,ユーザーを“育てる”時間が必要だ。日本でもテキスト・メールから写真メール,動画メールと徐々に発展してきているだろう。欧州でもVodafone Live!を徐々に発展させて,ユーザーが映像サービスに慣れていくようにすることが欠かせない。