「勝手にDNSサーバーを変更するとは何ごとか」――。  「.com」と「.net」のDNSサーバーを運営する米ベリサインが批判にさらされている。同社が9月15日に開始した「Site Finder」サービスが原因だ。存在しない「.com」/「.net」のURLを入力したとき,本来なら「ドメインが存在しない」ことを示すエラー・メッセージが返されるところを,ベリサインは自社で運営するSite FinderのWebサイトへ勝手に転送されるように設定したからだ。
 gTLD(generic top level domain)を管理するICANN(internet corporation for assigned names and numbers)は,さっそくベリサインへSite Finderの停止を勧告。これを受け,同社は10月4日にSite Finderを「一時停止」した。
 突如として起こった,ベリサインのSite Finder問題について,ICANNで理事を務める加藤幹之氏に話を聞いた。(聞き手は武部 健一=日経コミュニケーション)

--ベリサインの「Site Finder」は何に違反しているのか。

 一言で言うと,契約に違反している。ベリサインは「このように.comと.netを運営します」という契約をICANNとの間で結んでいる。当然,法的な手続きを取ることも可能だ。ただ,契約書は何十ページもあるものだが「Site Finderのようなことをやってはいけない」というような,細かいことまでは書かれていない。「インターネットの安定性を実現するために本来のDNSの使い方を守ります」といったことが“ふわっと”した感じで書かれている。だから,ベリサインの側にも言い分はあるのかもしれない。
 ただ,ベリサインは多くのユーザーから「ひどい」と言われて圧力を感じているだろう。彼らとしても止めざる得ない状況なのではないか。
 ベリサインはセキュリティの分野では尊敬を受けている会社だろうが,ドメインのビジネスでは,これまでにも「Wait-Listing Service」など,えげつないことをやってきた。

--今後もベリサインに.comと.netの運用をまかせるのか。

 もしベリサインが契約に違反したらストップだ。ただ,ほかの組織へ移行するとしたら時間が多少必要だ。1秒たりともDNSは止まってはならないので,移行できるだけの体制を整えるのに最低でも数カ月はかかるだろう。

--Site Finder問題の成り行きをどう見るか。

 10月末にチュニジアのカルタゴでICANNの総会があるが,ここでもSite Finderが最大の問題になるだろう。ただ,このカルタゴの会議くらいで,ことの成り行きは決まるのではないか。ずっと尾を引くことにはならないと思う。

--そもそもSite Finderのような問題が起こったのは,ICANN自身がしっかりとしたDNSの運営を行なっていないからだという批判がある。また,「ICANNは米国主導だ。DNSの運営は国連の機関に移管すべきだ」との主張もあるが。

 国連と言うよりITU(国際電気通信連合)対ICANNという構図がある。ITUとICANNは仲が悪い。発展途上国はICANNが米国主導だと主張しているが,自分はそうは思っていない。こう言っては申し訳ないが,ITUは少し古いタイプのガバナンス(統治)で運営している。
 インターネットはやはりICANNのような民間主導で,自律分散型で,自由に民主的に運営するべきだ。なぜなら,Site Finderもそうだが,インターネットではいろいろな問題や新しい技術がどんどん出てくる。ICANNは電話会議や電子メールでガンガン議論して(Site Finderのような問題にも)すぐに対処できる。国連の機関だったら問題への対処にもっと時間がかかるだろう。
 逆にそういう組織だからこそ,「ICANNは組織として“ガッシリ”していない」という批判があればそれは正しいだろう。運用上もまだまだ問題はたくさんある。しかし,ICANNは設立されたまだ5年しか経っていないが,この5年間で「com」,「net」,「org」の三つしかなかったgTLDの数を増やし,国際化ドメインも作った。国連の機関だったら,これだけのことはできなかっただろう。