PBXベンダーの1社である米アバイアが,企業向けIP電話市場で攻勢を強めている。米シナジー・リサーチの調査によると,2003年第1四半期にIP電話向け機器市場のポート出荷数で世界トップに躍進した。売上金額でも,第1位の米シスコ・システムズを急速に追い上げている。同社でIP電話関連のマーケティングを担当するジル・ロス氏に躍進の背景を聞いた。
(聞き手は加藤 慶信)

--IP電話関連市場でのアバイアのポジションを教えてほしい。
 米国の調査会社であるシナジー・リサーチのデータによれば,IP電話関連のポート出荷数で全世界で22%のシェアを占めている。2002年第4四半期は16%だったが2002年第1四半期で22%に拡大し,米シスコ・システムズを抜いてトップに立った。
 シスコは,2002年第4四半期の26%から,2003年第1四半期には19%へとシェアを落とした。売上金額のシェアも同じ傾向だ。アバイアは2002年第4四半期の10%から2003年第1四半期には23%と大幅に上昇したが,シスコは同じ時期に39%から29%になった。

--シスコ製品との最大の違いは何か。
 シスコの製品は,基本的にIPネットワークでしか電話サービスを提供できない。アバイアの製品は,IPネットワークだけでなく,従来型のPBX(構内交換機)ネットワークでも電話サービスを提供できる。ユーザーは,二つの選択肢から一方を選ぶことも,両方を組み合わせることも可能だ。
 利用できるPBX機能の数にも違いがある。シスコの呼制御サーバー「Cisco CallManager」は90だが,アバイアの「Avaya Communication Manager」は700以上の機能を持つ。シスコを選べば,従来のPBXで使っていた機能を利用できなくなる。だから,アバイアを選ぶというユーザーが増えている。
 管理ツールの違いもある。例えば,シスコの管理ツールは電話サービスに関するきめ細かな監視に対応していない。もちろん,ネットワークの遅延などデータ系の監視に関しては,シスコは非常にすばらしい機能を提供している。しかし,米国は国土が広いためリモート監視のニーズが高い。音声に関するトラブルの通知や,様々な解決策を提供できなければ,そのニーズには応えられない。

--シスコと比べた場合,ユーザーの投資コストに差は生じないのか。
 ビジネス・モデルそのものが違う。シスコの場合は,IP電話機の接続台数や利用するPBX機能が増えても,サーバーを追加するだけで対応できることを売りにしている。アバイアは管理の一元化が売りだ。例えば,実際に存在するコール・センター向けの事例だが,50台のクライアント・パソコンを管理するのにシスコのCallManagerは24台必要だった。しかし,アバイアのCommunication Managerはたった2台で済んだ。

--ユーザーにとってIP電話を導入するメリットは何か。
 現在IP電話のソリューションを求めているユーザーは,何よりもコスト削減効果を重視している。データ系と音声系のインフラをIPで統合すれば,PBXの管理コストの削減,管理者などの人員コストの削減,拠点間の通話料の削減などを実現できる。
 しかしIP電話で期待できるのは,コスト削減効果ばかりではない。企業の生産性を押し上げ,人材の有効活用も実現する。この結果収益の向上をもたらす。
 この効果は,インフラの上で動くアプリケーションを統合することで得られる。バックオフィスのビジネス・アプリケーションとCommunication Managerを連携させることで,ユーザーはあらゆる端末から情報にアクセスできるようになるからだ。

--IP電話導入時に注意すべき点は何か。
 これまでの導入事例から学んだことをベースにして,10か条をまとめた。特にお勧めしたいのが,「小規模から始めて,フェーズを切って段階的に拡大していくこと」,「実際の統合作業の前に,完全な形でサービス提供できる準備をしておくこと」の二つだ。後者を具体的に言えば,IP電話を導入する前に,パケット損失や遅延などが発生しないか十分に検証する必要があると言うことだ。検証の結果,必要ならバーチャルLANやQoS(quality of service)を設定し,音声を保護しなければならない。

--日本は総務部がPBXを管理するケースが多い。米国の場合,PBXは誰が管理するのか。 一般には,テレコム・マネージャと呼ばれる担当者が管理する。米国の場合IT部門の中で,テレフォニ・スペシャリスト,アプリケーション・スペシャリスト,ネットワーク・スペシャリスト,米マイクロソフトのグループウエアExchangeのスペシャリストなど,個々のスペシャリストに分かれる。このため,日本のように音声の管理を総務部門とIT部門で押し付けあうようなことはない。