ごく最近、外資系ソフトウエア・ベンダーの日本法人社長から、「若手のコンサルタントが悩んでいる」という話を聞いた。その若手は海外の大学でMBA(経営学修士)を取得した勉強家で、ITを使った経営改革の支援をしたいと考え、ソフト・ベンダーに入り、世界的な大企業の担当になった。

 ところが顧客の現場に行ってみると、理解しがたい要求が待っていた。成果物を規定した契約になっているにもかかわらず、顧客の現場担当者は「これ、やっておいて」と、彼を雑用係としてあごで使おうとする。

 最初のうちは言うとおりにしていたものの、その顧客に長年入り込んでいるメインフレーマが本来担当すべき案件の後始末を押しつけられそうになったときに、彼はついに逆らった。「それはできません。理由はこれこれです」。

 すると顧客の担当者は、「うちと御社はそんな関係ではないでしょう。一皮むけた付き合いをしてくださいよ」と言ってきた。損得を度外視して、言うことを聞け、というわけである。

 「その仕事は他社が担当すべき部分を含むので責任を持って請け負えません」となおも断ろうとすると、「節目にアドバイスしてくれればそれでいい。ただ、この仕事に追加費用は払えない。時間があいたら別の顧客でアルバイトしてもらってもかまわない」とまた乱暴なことを言われたそうである。

 若手コンサルタントは今のところ、顧客の言う通りにしているものの、「こんなことばかり起こるのではやってられない、と進退伺いを出しかねない雰囲気」(ソフト・ベンダー社長)という。

 筆者は以上の話を聞いて、10年前に別のソフト会社社長から聞いたことを思い出した。外資系ではなく、ごく普通のソフト会社だが、社長は外資系コンピュータ大手の元SEであった。

 そのソフト会社が、大手流通業のプロジェクトに参加した。その流通業は、業務要件をなかなか決められなかった。契約は請負である。ソフト会社の社長は、顧客に申し入れた。「要件を固めてくれないと納期を守れません」。

 ところがその流通業のシステム部長はこう言った。「うちと付き合うなら、大人になってくれないと。悪いようにはしないから」。ソフト会社の社長は意味が分からず、その流通業に出入りしているほかのソフト会社に相談した。すると、「要件はいつも決まらないので開発は必ず遅れ、赤字の仕事になる。それに耐えていると、先々仕事をくれるし、時々損を補てんしてくれる」と説明された。

 しかし、そのソフト会社社長は納得せず、「今の仕事をきっちりやって利益を出す」と宣言した。顧客の利用部門まで乗り込んで要件を強引に決めさせ、当初の計画通りにシステムを作り上げた。顧客は、「期限通りにシステムができたのは初めてだ」と喜んだものの、このソフト会社のSEにはこう言いわたした。「礼は言う。ただし今後、おたくの社長の出入りを禁ずる」。

 コンサルタントもどきや偽SEを送り込んでくる企業があるのは事実である。コンサルタントやSEを出入り業者と見なして苦行を課す日本の商慣習は、半人前を鍛える効果があるかもしれない。しかしそんなことを続けると、優秀な人材は寄りつかなくなる。旧態依然の外注管理をしている企業は、「イコールパートナー」という言葉を再考するときではなかろうか。