6月16日付『日本経済新聞』夕刊に、「政府が2005年度、電子政府に完全移行」という趣旨の記事が出た。同記事によると、6月末に政府が発表する「電子政府構築計画」に、電子政府への移行期限が明記されるという。以下では、この計画を批判し、電子政府計画そのものを見直すことを進言する。ただし本コラムを執筆している6月16日深夜の段階では、計画は正式に発表されていない。

 計画では、現在1万3300件ある中央省庁への申請・届け出手続きについて2003年度中のオンライン化を目指し、2005年度までに完全実施する。2003年8月までに各省庁の業務システムを見直し、2005年度末までにシステムの最適化計画を策定するなどとなっている。

 実際の計画が新聞報道通りとすれば、いずれも無意味である。情報システムを構築あるいは改修する前に、まず業務を変革するという基本がまったくなおざりにされているからだ。

 1万3300件の手続きをオンライン化してなにかよくなるのであろうか。数値目標を立てるなら、「2003年度中に手続きを半減する」といったものにしなければならない。そして業務システムの最適化計画を立てる前に、業務の最適化計画が求められる。手続きを削減し、業務を見直した上で、必要ならばオンライン化や業務システムの再設計を検討していただきたい。

 新聞記事には、運営経費が割高な「レガシー(旧式)システム」の刷新が必要と書かれている。これは、メインフレームを使って構築されている現行システムを指す。確かに現行システムには相当なコストがかかっている。

 だからといって手続きや業務をそのままにして、メインフレームをオープン・システムに切り替えたところで、コストはたいして下がらない。ハードは多少安くなるかもしれないが、その程度の削減分は切り替え作業のコストで吹き飛ぶ。結局、レガシー・システムを再生産するだけで終わる。

 この調子で書いていくと、業務改善に先だって省庁のあり方そのものを検討せよ、という結論に到達する。業務を抜本的に見直すには、ここまでさかのぼる必要がある。

 ただし、こう書くと気が抜ける。この種の指摘は過去何度となくされたであろうからだ。それでも政府や省庁は、仕事を根本から見直したことは一度もない。となると、今回も同じだろう。

 「今回もダメ」と思って新聞記事を読み直すと、こんな表現があった。「各省庁にとって業務システムの刷新は事務体系の抜本見直しにつながるため、抵抗が根強い。このため政府は行動計画の期限を2005年度までに区切り、移行を確実にしたい考えだ」。

 本来の業務改革から考えると順番があべこべなのだが、あえて深読みをすると、業務システムを先に変えてしまい、その結果として事務を抜本的に見直す、というシナリオなのかもしれない。ERPパッケージ(統合業務パッケージ)を先に入れ、業務をパッケージに合わせて改革するやり方と似ている。

 それには、新システムの中に、業務改革を誘発する、新たな業務プロセスを埋め込んでおく必要がある。さらに実際のシステム導入のときに、現場から出てくる「こんなシステムでは使えない」という反対意見を無視し、強引に新システムを展開する根性が求められる。