富士通がメディアから非難されている。同社は4月25日、秋草直之社長が会長に、黒川博昭常務が社長に、それぞれ6月下旬に昇格する人事を発表。その数時間後、2003年3月期の最終連結損益が1220億円の赤字になったと発表。2期連続最終赤字にもかかわらず、秋草氏が続投することに、メディアは批判的である。

 筆者は本欄に、一般の論調と異なることを極力書こうとしている。よって富士通の問題について、あまり報じられていないことを2点書く。

 第1に、富士通がこれ以上おかしくなると、日本にとって相当な悪影響が出る。富士通は、民間企業と官公庁に膨大な顧客を抱えている。大量の富士通製メインフレームとオフコンがまだ動いている。富士通の顧客数は、どのライバル他社よりも多い。

 しかもかなりの顧客は、システムの保守や運用について富士通グループに依存している。実際、富士通グループの名刺を持ったSEが、あちこちの企業や官公庁のセンターに常駐している。

 とりわけ官公庁や自治体は自前のSEが少なく、富士通抜きでシステムを維持できないところが少なくない。これを富士通が日本を支えていると見るか、企業や官公庁を食い物にしていると見るか、議論は分かれる。とにかく、要員を送り込み、長期にわたって顧客をサポートしているだけに、富士通の経営不振は看過できないものがある。

 さらに国家安全のことまで考えると富士通の存在は重要である。もはや、自力でプロセサとOSを開発・製造・維持できる日本企業は富士通しかない。最近、「ブラックボックスの海外製OSを使うのはいかがなものか」という意見が出ている。仮にこの意見を認めるとすると、プロセサについても同様の意見が成立するのではないか。

 日本で五指に入るIBM大口顧客のシステム部長は真顔で語る。「富士通が本当に経営危機になったら、IBMが昔のように威張り出す。富士通の危機は、IBMユーザーにとってリスクだ」。

 ここまで読んで、「お前は富士通の回し者か」と言ってこられる読者が出るかもしれない。そこで次に批判を書く。富士通の経営不振の理由について筆者は、「顧客接点の活動が改革されていないこと」が最も大きいと考える。

 日本の大手コンピュータ・メーカーの中で、顧客との契約の見直しやSEサービスの有償化を最初に言い出したのは秋草氏である。それまで無償のことが多かったSEサービスの質を高めるかわり、なんとか有償にしようとする試みだった。

 問題は改革を言い出してから10年以上が経過し、有償化は進んだものの、質の向上に疑問符がつくことだ。特に、顧客の情報システムの開発を富士通が請け負う場合、弱点が露呈する。しかもここぞという重要な顧客で失敗が散見される。数年前は信販会社や通信会社で開発トラブルを起こし、最近では地方銀行のシステム開発で苦戦している。

 システム開発で苦労する理由の一つは、4月7日号の本欄で触れた、「西暦2007年問題」が富士通でも発生していることだ。人員削減の影響もあって、顧客を支えてきたベテランたちが現場からいなくなりつつある。

 ある富士通の部長はこう語った。「不振の真因は人材育成の失敗にある。急成長していたときに、外部のSEを使いすぎた。手配師は育ったが、自分で開発ができる技術者の層が薄い」。

谷島 宣之=ビズテック局編集委員