「業務アプリケーション・ソフトは原則として自作し、パッケージ・ソフトはなるべく使わない。ソフト開発にあたって協力会社を使ったとしても、ノウハウは極力社内に残す。開発の生産性と品質を高める奇策はないから、データ中心設計といった原理原則が確立している手法をきちんと用いる。運用もできる限り、自社で実施し、アウトソーシングは最後の手段とする」。

 これが筆者が理想と考える、情報システム部門の開発・運用の姿である。企業の変化に合わせてシステムを素早く開発・拡張していくには、自分で作るのが本来一番よい。

 これまでも本欄で、「システムは自分で作る」とか、「アウトソーシングは必要悪」といったテーマを断片的に書いてきた。冒頭の理想像は、それらをまとめたものである。もちろん、経営に役立つ提案を、システム部門なりに出すという大きな仕事もある。だが、とにかくきちんとシステムを開発・運用し、利用者に供することが基本である。

 ただし、こうした理想像をあまりはっきり書いてこなかった。いい実例を見つけられなかったからである。しかし、ついに理想像に近いと思われる企業に巡り会った。住友電気工業である。

 同社はほぼすべての基幹業務システムを、情報システム部とシステム関連会社の住友電工情報システムで開発している。協力会社も活用しているものの、主導権は住友電工にある。ごく一部でパッケージ・ソフトを使っているが、基本方針は独自開発である。

 しかも多数のシステムを短期間に開発し、次々に動かしている。2000年後半から2002年前半を見ても、購買EC、Web受注といったエレクトロニック・コマース(EC)のシステムから、原価管理、生産管理、設計、SCM(販売、製造、物流管理)といった基幹システム群を稼働させている。

 これらを、Web方式で開発しており、開発言語はJava、OSはLinux、データベースはDB2に統一している。基幹系システムにおけるLinuxとJavaの適用事例としては日本最多だろう。住友電工は1999年から、情報システムのアーキテクチャをLinuxとJavaに決めており、これ以降の開発はすべてこのアーキテクチャ上で実施している。

 住友電工が社内開発の実績をまとめた結果によると、ファンクション・ポイント当たりの開発工数の相対値では、COBOLが2.9、Visual Basicが2に対し、Javaは1という。これは同社が独自開発した「コンポーネント再利用型フレームワーク」の存在が大きい。当初、Javaをそのまま使ったところ、COBOLより生産性が低く、保守性も悪かったため、フレームワークの開発に踏み切った。データ中心設計の効果も大きい。住友電工は1994年から、データ中心設計に取り組み、佐藤正美氏が考案した「T字型ERデータベース設計技法」を実践してきた。この手法を用いた結果、データをアクセスするソフトの開発量を減らせた上に、保守性を向上できた。この実績を踏まえ、設計はデータ中心、開発にだけオブジェクト指向(Java)を組み合わせることにした。設計段階からオブジェクト指向を採用すると、生産性・保守性がかえって悪化するという判断である。

 なお、本欄で筆者が特定ユーザーを絶賛するのは2度目である。前回は誉めすぎたためか、その企業で残念なトラブルが生じた。住友電工のシステム群に問題が起こらないことを祈りたい。

谷島 宣之=ビズテック局編集委員