「我々のようなNEC製メインフレーム・ユーザーは今日明日に、メインフレームを捨ててオープン・システムに移行しようとは考えていない。メインフレームを使った既存システムの将来をどう考えておられるのか、説明してほしい」。

 9月中旬、中部地区のNECユーザー会とNEC幹部の意見交換の場で、ユーザーの代表者は、NECの川村敏郎常務にこう質問した。中部地区には、NEC製メインフレームを使っているユーザーが多い。こうしたユーザーは、UNIXやWindowsサーバーなどオープン・システムの信頼性はまだ劣ると考えている。そもそも、問題なく動いている既存システムを、新規投資をしてまでオープン・システムに移行する必然性が見えない、という意見もある。

 一方NECは、「既存ユーザーのメインフレームを維持するだけでは事業にならない」と判断し、メインフレームを使ってきた基幹業務システムを、オープン・システムで代替していく方針を明確に打ち出している。全盛期にNECはメインフレームを年間6000億円売り上げたが、現在は年間400億円弱。新機種の開発はもはやできない事業規模と言える。時期は不明だが、10年以内にNECはメインフレームの開発・製造を止めるだろう。

 意見交換の場に集まったユーザーに対し、川村常務は「NECのオープンミッションクリティカルソリューション」方針を力説したが、ユーザーからは冒頭の質問が出た。川村常務はこう答えた。

 「メインフレームのサポートを停止することはないのでご安心いただきたい。ただし、5年あるいは10年といった時間軸で考えたとき、基幹業務はオープン・システムの上で処理されていく。業界を見わたしても今後10年を考えると、メインフレームを扱えるエンジニアの確保は難しい。また経営環境に対応し、業務を変えていくために、既存システムは修整あるいは再構築せざるを得ない。そのとき選択すべきはオープン・システムです」。

 ユーザーとしては、「メインフレームをサポートできる、しっかりしたエンジニアを提供することもメーカーの責任」と言いたくなる。だが、多くのソフト会社が社員にオープン・システム技術だけを教えている現状は、いかんともしがたい。

 この問題は、富士通や日立製作所製メインフレーム・ユーザーにも共通している。富士通も日立も、ドル箱であった米国市場のメインフレーム販売から撤退を余儀なくされた。国内販売だけでメインフレームの自社開発を維持することは厳しい。実際、両社ともメインフレーム用基本ソフトをほとんど強化していないし、日立は米IBMからメインフレーム用プロセサを購入している。

 プロセサと基本ソフトを作るのがコンピュータ・メーカーと定義すると、そう遠くない将来に、国産メーカーが消滅する可能性は大きい。全滅はまずいので、国策として1社は残すかもしれない。ユーザー数から考えると富士通になる。日立はハード・ディスクなど部品を、NECは通信機器をそれぞれ担当し、3社はすみ分けるだろう。

 ユーザーは、「利用しているプラットフォームは永遠ではない」と認識し、自分で防御策を講じるしかない。この問題は、パッケージ導入やアウトソーシングでは解決できない。非常に遠回りのようだが、自社の業務の流れとルール、利用するデータ項目といった、根底の仕様を整理し、どんな環境にも自社システムを実装しやすいようにしておくしかなさそうだ。

谷島 宣之=コンピュータ第一局編集委員