「私もいまだに人月なのか、と言いたい。この問題はIBMだけではどうにもならない。マスメディアの皆さん、助けてください」。9月18日、日本IBMの大歳卓麻社長は記者団にこう語った。異例の発言は、「いまだにシステム開発の対価は人月で決まっており、進歩がない」という質問への回答であった。

 ここでいう「人月」とは、システム・エンジニア一人当たりの月額料金を決めておき、それを顧客が支払うやり方を指す。派遣社員の対価を支払う形に近い。現在、たいていのシステム開発プロジェクトの契約は、派遣方式ではなく、請負型になっている。総開発費は人月を積み上げて決めるものの、実際に何人のエンジニアを投入して開発するかは、請け負ったシステム・インテグレータ側に任されている。

 だが現実には、「何人のエンジニアを何年間使ったからいくら」という形で顧客が対価を支払っていることが多い。そもそもインテグレータ自身が、「要件定義は3カ月、この作業をする担当者は1人月200万円」などと、顧客に人月の明細を提示している事例が散見される。

 こうした人月課金方式では、「企業も個人も、システム開発の生産性を上げようという気にならない。結局、お客様は高い買い物をする」(大歳社長)。例えば非常に優秀なエンジニアが通常なら1年はかかる開発を半年で仕上げたとする。作業期間が半年だから、支払われる対価は1年分の半分になってしまう。

 大歳社長は以前にも、「お客様は我々に任せ、エンジニアの出席はとらないでほしい」と発言していた。契約は請負になっていても、機密保護の観点から、作業場所は顧客のコンピュータ・センターであることが少なくない。もし顧客が毎朝、エンジニアの出欠を確認したとすると、結局は派遣と同じことになる。

 同業他社との集まりで、「人月はやめ、成果物で対価を決めていきましょう」と大歳社長は話している。「皆さん、その通りとおっしゃり、IBMが先陣をきってくれ、といわれる」(大歳社長)。だが、現実にはインテグレータの足並みが揃わない。多くの顧客も人月を使いたがる。根底には、開発要件をかっちり決めて正確な対価を見積もることが極めて難しい、という大問題が横たわっている。

 請負契約にもかかわらず、開発の進み具合を、実際に投入した人月で計ることが多いのも問題と言える。本来なら成果物の出来具合、あるいは米国で普及している出来高(アーンド・バリュー)と呼ばれる数値で計ることが望ましい。

 ここにきて、官公庁のシステム調達改革の一環として、アーンド・バリューを使うプロジェクトマネジメント手法が日本で導入される兆候がみえてきた。その一方で、「アーンド・バリューは事務作業が増えるばかりで面倒」ともらすインテグレータもある。

 米国で導入が進んだ理由は、プロジェクトマネジメント学会の是澤(これさわ)輝昭理事によると、「アーンド・バリュー方式と報奨付きの契約がいわばセットになっていたから」である。

 報奨付きの契約とは、あらかじめ決めた開発コストの範囲で開発を終えた場合、顧客がインテグレータに報奨金を支払うもの。報奨金とは、日本の金一封などではない。決め方や契約方式はいくつかあるが、総開発コストの何%という相当な額である。