企業でも当たり前のように利用されているWebアプリケーション。一方で、使い勝手の悪さに不満を抱くユーザーが少なくない。操作性の改善を目指した製品や技術も存在するが、決定打とは言えない。しかし新手法「Ajax」の登場で、状況が大きく変わろうとしている。これを機に、Webの操作性を見直す動きが本格化しそうだ。

(玉置 亮太)


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マウス操作に合わせて画像が滑らかに動く地図閲覧サービス
 まずは、右の連続写真をご覧いただきたい。ある地図閲覧アプリケーションで、地図データ(ここでは写真)を表示した様子を示したものだ。マウスで地図をドラッグすると、その動きに合わせて滑らかに移動していく。

 「地図閲覧なんだから、地図が滑らかに動くのは当然」と思うかもしれない。だが、そうではない。同等の使い勝手をアプリケーションに持たせようとすると、普通なら専用の地図閲覧ソフトを使うか、ブラウザにプラグインをインストールしなければならない。しかし、上の例はWebを利用したアプリケーションであり、Webブラウザ上で特別な追加ソフト(プラグイン)を使わずに利用できる。それでいて、画像をスムーズに移動できるのである。

 この地図閲覧アプリケーションを開発したのは検索サービス大手の米グーグル。Webブラウザ上でこうした操作ができるようにするために、「Ajax」と呼ぶ手法を使った。このサービスを今年2月から「Google Maps」として提供している(現在は英語ベータ版。正式サービス開始時期は未定)。

入力した文字(「に」や「にっけ」)で始まるキーワードを即座に表示する語句検索支援サービス
 右側に示したのも、Ajaxを使ったアプリケーションの例だ(グーグルの「Google Suggest」)。入力した文字(図では「に」や「にっけ」)で始まるキーワードを即座に表示する。これも機能としてはありふれているが、Google Mapsと同様、Webブラウザ上でプラグインなしで実現した点が売りものだ。

 いま、このAjaxを利用する機運が、米国や日本を問わず急速に高まっている。すでに米国では、グーグルに加えてアマゾン・ドット・コムやヤフーなどが、Ajaxを利用したサービスを提供。日本では、検索サイトのgooを運営するNTTレゾナントが4月にグーグルと同様の地図検索サービスを開始した。このほか、ベンチャー企業のかっぺが7月にAjaxを使ったWebメール・ソフトを発売する予定だ。サイボウズもWebグループウエア「サイボウズOffice」での採用を検討している。

 現状では、Ajaxを使っているのは一般向けのWebサイトやパッケージ・ベンダーがほとんど。だがこのAjax、実は企業情報システムの操作性を改善する上でも大きな役割を果たす可能性が高い要注目の手法なのである。

Webの操作性を再考する機会に

 今やWebアプリケーションは、企業システムとして、ごく一般的に利用されている。クライアント数が多くても保守が容易、クライアントのOSやバージョンの違いを気にする必要がない、といったメリットが受け入れられたためである。

 その一方でWebアプリケーションには、「操作性が悪い」という問題が依然として付きまとう。企業の情報化動向に詳しいアイ・ティ・アールの内山悟志代表取締役は、「Webブラウザは基本的に、Webページの形で表現したデータを閲覧するためのもの。クライアント/サーバー(C/S)型のシステムと比べると、使いづらいのは当然。C/S型からWebアプリケーションに移行したとたんに使い勝手が悪化し、エンドユーザーの不評を買うケースは、現在でも枚挙にいとまがない」と話す。

 「だったら、『リッチクライアント』を使えばよいのではないか」との意見もあるだろう。リッチクライアントは、Webブラウザにプラグインなどをインストールして、C/S型システム並みの操作性を実現したクライアントのこと。ここ3年でマイクロソフトやマクロメディア、アクシスソフト、カールなどが、リッチクライアントの開発を支援する製品や技術を投入している。1999年11月に出荷開始したアクシスソフトの「Biz/Browser」の利用企業数は、累計で300社に達した。各社は製品の強化も急ピッチで進めている。

 しかし、全体としてリッチクライアントはまだ普及しているとは言いがたい。野村総合研究所が、無作為抽出した2000社を対象に昨年実施した調査(有効回答数は275社)によれば、企業システムのクライアントのうち、リッチクライアントの割合は14.4%。HTMLクライアント(Webアプリケーションのクライアント、30.5%)やファット・クライアント(C/S型システムのクライアント、39.4%)の半分以下だ。

 その理由として、リッチクライアント製品の機能がまだ不十分、ベンダー依存にならざるを得ない、ライセンス料金が発生するといった点が挙げられる。だが、大きいのは「Webアプリケーションの使い勝手に対する問題意識を持つ企業が少ないからだ」と、カールの古賀実 取締役は指摘する。

 Ajaxの登場で、この状況が大きく変わる可能性が高い。


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