米国の今後20年間の戦略は一体どのようなもので、日本にどんな影響を及ぼすのか――。これを示す注目の報告書が2004年12月15日、公表された。2003年9月から米国の産官学のリーダー400余人が結集し、検討を重ねてきた「国家イノベーション・イニシアティブ最終報告書」がそれだ。人材育成と投資、インフラ整備という3つの観点から「革新が必要」と提言し、再選されたブッシュ大統領に実行を求めていく。

「米国が、21世紀も引き続き発展・成長を遂げるためには『イノベーション(革新)』こそ、唯一最大の原動力。米国を丸ごと革新すべきである」と宣言した報告書が、2004年末に発表された。
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写真●米競争力評議会のWebサイト(http://www.compete.org/)と、報告をとりまとめたパルミサーノ氏。このサイトから「パルミサーノ・レポート」をダウンロードできる |
この種の報告書は提言したら終わりで、実行が伴わないのが普通だ。この意味で、「何がそんなに重要なのか」といぶかる向きもあるだろう。しかしパルミサーノ・レポートを、そんな報告書の一つだと考えたら、本質を見誤る。ヤング・レポートが米国の通商政策やハイテク政策に多大な影響をもたらしたのは周知の通りだ。
報告書の公表にあたってパルミサーノ氏は、「(報告書にまとめた提言は)米国にとっての最優先事項である」とコメント。再選なったブッシュ大統領に対し、実行を強く求めていく考えを示した。実行が伴う報告書だから重要なのである。
スローガンは「イノベーション」
早速、内容を見てみよう。報告書のタイトルは、「Innovate America(米国を丸ごと革新せよ)」。簡潔なタイトルゆえに、問題意識と決意が伝わってくる。サブタイトルは「挑戦と変化の時代に繁栄を求めて(Thriving In A World Of Challenge And Change)」となっている。
本文冒頭の「決意宣言」では、米国が次代を担う子供たちに遺産として引き継ぐべきものは、米国と世界の繁栄を牽引する創造性であり、その実践を国家として約束することである、と「米国の果たすべき役割」を述べる。
そのために「行うべき挑戦」は、米国の持てるイノベーション能力を解き放ち、生産性や生活レベルの向上、グローバル社会におけるリーダシップを一層強化することである、とする。「米国を取り巻く現在のマクロ経済環境を考えるとき、企業や政府、就労者、そして大学などは、前例がないグローバルな変化の中で、イノベーションを武器に追い上げてくる海外諸国や、短期成果の追及という容赦なき圧力にさらされている。したがって、米国が自らイノベーションを実践する緊急性は極めて高い」(同報告書)。
この決意宣言が、パルミサーノ・レポートの神髄だ。本文だけで49ページに及ぶ報告書を分析したITアナリストの伊東玄氏(RITAコンサルティング主席研究員)は、わずか1ページの「決意宣言」の背景を次のように解きほぐす。
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表1●「イノベーション指数」による競争力比較。1999年に米競争力評議会が公表したもので、パルミサーノ・レポートの背景にある危機意識はここからきている |
グローバル化が米国に圧力
ではイノベーションとは何か。「社会的、経済的な価値創造を実現する“発明と見識”の融合」。これがパルミサーノ・レポートによる定義である。繰り返し強調されるイノベーションは、「複数の学際による融合」が特徴だ。報告書は、これまでの単一機能の、垂直統合的な発想や発明、商業化という単純なイノベーションの時代ではなくなっていると指摘し、学際のあり方、企業や公的機関における研究活動のやり方も抜本的に見直す必要があると示唆する。それは人材育成や教育のカリキュラムにまで及ぶ。
続いて「決意宣言」では、繁栄の裏側で張子の大国となりつつある米国の実態と、自らまいたグローバリゼーションが、ブーメラン効果となって米国に圧力をかけている状況を説明する。
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