クレジットカード4社は今年6月、対外接続システム(FEP)の共同化プロジェクトを無事終えた。カード業界初のシステム共同化である。市場で激しく競合する4社が手を組むだけに、推進体制には気をつかった。プロジェクトを主導する幹事会社をあえて決めず、4社対等の精神で進めた。仕様決定などで各社の意見が割れたときは、“システム屋”の合理的な判断で乗り切った。(文中敬称略)

(高下 義弘)


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図1●クレジットカード大手4社が手を組み、対外接続システム(FEP)の共同化を実現した
図2●「MEGAシステム」を構築し、4社が個別に構築・運用していた対外接続システム(FEP)を共同化した。ICカード用の処理や、2センターによる信頼性向上などを、コストを抑えつつ実現した
 幹事会社不在でよく予定通り稼働したものだ――。クレジットカード業界や一部のIT関係者がこう評するシステムがある。UCカード、クレディセゾン、オリエントコーポレーション(オリコ)、イオンクレジットサービスの大手4社が共同で構築した対外接続システム「MEGAシステム」のことだ(図1[拡大表示])。

 同システムは、4社の基幹系とCAFISなどのクレジットカード決済ネットワークを接続する役割を担う。一般に「FEP(Front End Processor)」と呼ばれるシステムで、これまで各社が独自に構築・運用していた。

 だが、4社はシステム・コスト削減を目指してFEPの共同化に合意した(図2[拡大表示])。2002年1月からプロジェクトを開始した。

 この手の共同化プロジェクトを成功に導くには、各社の意見を調整する幹事会社の強いリーダーシップが欠かせない。だがMEGAシステム構築のプロジェクトは、幹事会社をあえて決めず、4社対等の精神で進めた。ライバル関係にある4社が手を組むだけに、特定企業の色が出過ぎると共同化の枠組みそのものが崩壊すると考えた。

 リーダーの不在はリスクを伴う。FEPに要求される機能はカード各社でさほど変わりはないとはいえ、社風が異なる4社が集まるだけに、ときには摩擦が生じた。

 だが、4社の団結は最後まで揺るがなかった。仕様策定などを巡ってプロジェクトが空転しそうになるたびに、4社の代表は「良いシステムはどうあるべきか」というシステム屋の原点に立ち戻った。クレディセゾン戦略本部情報システム部長の栂野恭輔はそれを「システム屋の常識」と表現する。

 「良いものは良い」、「悪いものは悪い」とする合理的な判断が、会社の枠を超えた結束を促し、20億円弱を投じ2年半に及んだプロジェクトを成功に導いた。MEGAシステムは予定通り、今年1月に完成。4社は6月までに、主要決済ネットワークとの接続をMEGAシステム経由に切り替え、プロジェクトは無事に完了した。

みずほの音頭で4社が集結

 「カード各社でシステムの共同化に向けた研究を始めませんか」。2001年春、みずほホールディングスの担当者が複数のカード会社を説いて回った。みずほグループの持ち株会社である同社は、関係のあるカード会社を連合させ、グループの競争力強化を狙っていた。

 まず、みずほグループに属するUCカードに声がかかり、次いで人材交流や株式の保有で付き合いのあったクレディセゾン、オリコ、イオンクレジットの3社に打診がいった。

 もちろんカード市場で競い合う4社にとって、システムの共同化は簡単に受け入れられる話ではない。そこはみずほの担当者も分かっていた。共同化の範囲を“プロセシング”に絞って、各社に話を持ちかけた。

 プロセシングとは、カードの入会処理やオーソリゼーション(与信照会)など、比較的単純で大量のデータを処理する業務のこと。みずほの担当者は「プロセシングなら会社間の違いは比較的小さい。共同化によるコスト・メリットを前面に押し出せば、各社も話に乗りやすい」と考えた。

 狙いは当たった。クレディセゾンとオリコが誘いに応じた。クレディセゾンの栂野やオリコで事務システムグループ担当補佐を務める成田英樹は、UCカードのシステム総括部長である船串文夫らと共同化に向けた勉強会を始めた。勉強会の場で、各社のプロセシング業務やシステムの現状を報告しあうとともに、共同化の際の課題を探っていった。


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