グリッドは大規模な数値演算のためのもの―こうした認識でグリッドを「我々とは関係ない技術」と思っているなら、考えを改める必要がある。大規模な数値演算を実現するために培った技術を応用し、システム資源の最適化、運用負荷の軽減、障害対策などを目指したものが「グリッド」と称し始めたからだ。それらすべてを統一のインタフェースで実現するための、標準化も進んでいる。

(矢口 竜太郎)


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 今年に入って、データベース管理ソフト、クラスタリング・ソフト、運用管理ツール、サーバー/ネットワークの設定自動化ツールなど、さまざまなジャンルの製品が「グリッド対応」を表明しだした。

 従来のグリッドは、複数台のコンピュータをネットワークで接続し、あたかも1台のマシンのように扱うことを指していた。各コンピュータに処理を割り振って並列処理をさせることで、科学技術計算など、大規模な演算を実現するシステムを安価に実現できる。

 では、冒頭の各製品が言う「グリッド」は何を意味するのか。ひとことで言えば、大規模演算の並列処理を実現するグリッドで培った技術を応用し、さまざまなシステム資源を仮想的に一つのものとして扱えるようにすることである。ここでのシステム資源とは、プロセサやメモリー、ストレージ、ネットワーク機器からアプリケーションなど、システムを構成する要素すべてを指す。システム資源を仮想化することで、資源の最適化、運用負荷の軽減、障害対策などが容易になる。

 すなわち、グリッド関連技術が広い分野で応用され始め、「グリッド」という言葉の定義が変わってきたのだ。日本IBMの関 孝則技術理事によれば、「グリッド理論の提唱者の一人であるイアン・フォスター氏自身、2001年には定義を変えた」という。

 多方面で応用しやすくするための標準化も急ピッチで進んでいる。グリッド関連技術の標準化団体GGF(Global Grid Forum)は今年に入り、標準を拡張し始めた。4月には、米オラクルを中心にEGA(Enterprise Grid Alliance)という組織が発足。GGFで決めた標準を実装する際の問題点や、相互接続性の検証などを目的とする。

 現時点では一部のベンダーだけがグリッドという表現を使っているが、今後は、資源の最適化や運用負荷軽減、障害対策にかかわるベンダーのすべてがグリッドと言い出す可能性が高い。ベンダーの言葉に惑わされないためにも、グリッドとは何か、グリッド関連技術の標準化はどの方向へ向かっているのかを知っておきたい。

グリッドは三つに分類

図1●グリッド技術の分類。プロセシング・グリッドから始まったグリッド技術はビジネス・グリッドやデータ・グリッドへの応用が進んでいる
 現在、グリッドと呼ばれるものは三つに分類できる。「プロセシング・グリッド」、「ビジネス・グリッド」、「データ・グリッド」である(図1[拡大表示])。

 前述した大規模演算の並列処理を実現するグリッドが、「プロセシング・グリッド」。プロセシング・グリッドの目的は、ハードウエア・コストの削減にある。安価なコンピュータでも複数台接続すれば、高価なスーパーコンピュータや大規模サーバーに匹敵する処理能力を得られる。

 一方、「今年に入ってグリッド関連技術を大規模演算以外の用途に使おうという動きが顕著になってきた」と富士通研究所の岸本光弘主管研究員が証言する分野は、「ビジネス・グリッド」と呼ばれる。プロセシング・グリッドで培った技術を応用して、システム資源を効率的に活用したり、運用管理の手間を軽減したりする。

 「データ・グリッド」と呼ばれるものは、物理的に分散したデータをまとめて検索・参照することを目的としたものである。

 プロセシング・グリッドは、至るところで実装されている。今年3月には理化学研究所が1024台のLinuxマシンを使ったシステムを立ち上げた。研究機関だけでなく、金融業や製造業におけるシュミレーションでも使われ始め、効果が実証されている。

 データ・グリッドは一般企業でのニーズがまだ低く、普及はこれから。技術的にはプロセシング・グリッドの流れとは別のところにあるが、分散したものを仮想的に一つのものとして取り扱う点でグリッドに分類される。

 3分類の中で、特に注目すべきなのはビジネス・グリッドだ。ビジネス・グリッドが実現すると、情報システムのあり方を大きく変えることになる。

プロセシングの技術をビジネスへ

図2●ビジネス・グリッドを用いたシステム管理とこれまでのシステム管理の違い
 ビジネス・グリッドはプロセシング・グリッドで培った技術を基にしている。プロセシング・グリッドで培った技術は七つある。まずは、(1)アプリケーションを複数のジョブに分割する、(2)分割したジョブを複数のシステム資源に割り振る、(3)それぞれのシステム資源から処理した結果を統合して単一の結果としてまとめる―といったグリッドの基本的な機能を実現するものである(図2[拡大表示])。

 さらに資源を適切に割り振るため、(4)システム資源をリアルタイムで監視し、(5)空いている資源を探し出して優先的にジョブを割り当てることが必要になる。可用性を高めるには、(6)割り振った先のシステム資源にトラブルが発生し処理を遂行できない場合の、別資源へのジョブの再割り当て、(7)ログインが必要な資源を使うためのシングル・サインオン、なども求められる。

 七つの技術を駆使すれば、例えば、システム全体の稼働率を上げることができる。


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