システム構築サービスの大手ベンダー各社が、オープンソースのサポート体制を強化し始めた。現状では、OSにLinuxを使ってもデータベースやアプリケーション・サーバーといったミドルウエアには商用ソフトを使うのが一般的。システムの信頼性に影響が大きいミドルウエアにオープンソースを採用するには不安があるため、ユーザー企業が採用したがらないからだ。そこでベンダー各社は、ミドルウエアを含めた構築支援や保守といったサポートを打ち出す。

(森側 真一)


【無料】サンプル版を差し上げます本記事は日経コンピュータ2004年6月28日号からの抜粋です。そのため図や表が一部割愛されていることをあらかじめご了承ください。本「クローズアップ」の全文をお読みいただける【無料】サンプル版を差し上げます。お申込みはこちらでお受けしています。なお本号のご購入はバックナンバーをご利用ください。

 OSにLinuxを採用しても、システムのコストは安くなっていない―住商情報システム 技術グループ技術部の菅原孝二副部長は指摘する。オープンソースを利用してコストを下げるつもりだったユーザー企業の狙いが実現できていないというのだ。

 最大の原因は、ミドルウエアのコストが高いこと。現状のシステム構築ではOSにLinuxを選んでも、データベース管理システム(DBMS)やアプリケーション・サーバーといったミドルウエアには商用ソフトを採用するのが一般的である。無償であるオープンソースのミドルウエアを使うケースは少ない。

図1●“安い”オープンソースのミドルウエアを、“安心”して利用するためのサービスを大手ベンダー各社が提供し始めた
表1●オープンソースのミドルウエアに対するサポート体制を強化する大手ベンダー各社の動き
 同じオープンソースでもLinuxに比べてミドルウエアはバグなどに対する問題に対処してくれるベンダーがいないため、ユーザー企業が採用に踏み出せなかったからだ(図1[拡大表示])。ベンダーもこれまで、オープンソース・ソフトは保証し切れないため商用ソフトを勧めていた。

 その状況が変わってきた。ここ1~2カ月、大手ベンダー各社がオープンソースのミドルウエアに対する構築支援や保守といったサポートの体制を強化し、保証し始めた(表1[拡大表示])。

 例えばNTTデータは、OSから各種ミドルウエアすべてをオープンソースで固めたフルオープンソースのサポートを行う「Prossimo」を5月に発表。専門の組織を年内に発足する。NECは、オープンソース・ソフト14種類を対象にサポート・サービスをメニュー化した「OSSミドルウェアサポートサービス」の提供を開始した。6月には米ヒューレット・パッカード(HP)がオープンソースのミドルウエアのサポートを発表。DBMSのMySQLやアプリケーション・サーバーのJBossを同社製サーバーやLinuxとの組み合わせで動作を保証し、構築も支援する。日本HPは年内に同様のサービスを提供し始める予定だ。

 表1にはないが、日本IBMや日立製作所は、プロジェクト単位でオープンソースのミドルウエアのサポートを強化しているという。

 ユーザー企業としては、こうした動きを歓迎したいところだが、いくつかの懸念が残る。本当に安心してオープンソースのミドルウエアを使えるのか、大手ベンダーに依頼してトータルで安くなるのだろうかといった点だ。まだ始まったばかりのサービスであり、状況は変わっていくだろうが、各社の現状と今後の計画を知ったうえで、サービスの採用を見極めたい。

本当に安心?
ソースが読める技術者はこれから

 オープンソースのミドルウエアに問題が生じたら、何とかしてくれるのか。この質問に対してベンダー各社は「イエス」と答える。その裏付けは、“ソース・コードを見て障害に対処できる”ことにある。

 しかし商用ソフト・ベンダーからは、「MySQLやPostgreSQLはまだ不安定と聞く。問題の発生時にソース・コードを見て障害に対応するには優秀な技術者が必要。ベンダーはその体制を作れるのか、コストは見合うのか」といった声が挙がる。こうした課題に対してオープンソースのサポート強化をうたうベンダー各社は、(1)技術者の確保と体制作り、(2)動作保証のための検証、(3)第2世代オープンソースのベンダーとの協力、に取り組んでいる。

メインフレームの技術者を投入

図2●NECにおけるオープンソース・ソフトのサポート体制
 技術者の確保に力を入れている1社として、NECが挙げられる。同社Linux推進センターの高橋千恵子グループマネージャーは今年1月、子会社4社を含め、オープンソース関連で「どの部署にどんなスキルを持つ技術者がいるか」を調査した。調査結果を基に、約60人の技術者をリストアップ。その技術者が担当となり、14種のオープンソース・ソフトのサポート・サービスを提供し始めた(図2[拡大表示])。

 60人中、障害に対してソース・コードを見て自分で対処できる技術者は30人弱。14種のソフトすべてにそうした技術者を割り当てるところまでには至っていない。DBMSなどはソースを理解できる技術者の確保が容易でないため、同社製メインフレーム用DBMSであるRIQS?の開発者をオープンソース担当になってもらった。今後3年かけ、オープンソースDBMSの技術者を60人確保する計画だ。

 ソース・コードを見て障害に対処できる技術者の確保は、各社とも苦労している。日本ユニシスは、子会社のユニアデックスがオープンソース・ソフトの保守サービスを提供する。日本ユニシスにおけるメインフレームの技術者8人がユニアデックスに移り、重要度が高いシステムの保守を担当している。Tomcat、MySQL、PostgreSQLなどの保守を実施するが、ソース・コードを見て障害対応が可能な技術者は合わせて15人で、DBMS関連はそのうち3人。日本ユニシス Linuxビジネスセンターの伊藤佳美センター長は、「今後もソース・コードを読める技術者を増やしていく」と語る。

 技術者の確保と並行して、各社は組織の体制作りも進めている。


続きは日経コンピュータ2004年6月28日号をお読み下さい。この号のご購入はバックナンバーをご利用ください。