農業機械最大手のクボタは、1998年からJavaによる大規模基幹システムの開発に取り組んでいる先進企業。開発効率化に向けて「フレームワーク」を独自に開発、6年にわたり改善を続けてきた。当初はJava技術が未成熟だったためプログラムが不意に止まったり、ユーザーが希望する使い勝手をなかなか実現できないという課題が浮上した。クボタはこれらの問題を一つずつ解決していった。

(西村 崇)


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 生産管理、受発注、調達、生産/販売計画、輸出販売管理、品質情報管理――クボタが1998年以降、Javaで開発してきた基幹系システムである。最近でこそ、大規模な基幹システムをJavaで構築する企業が増えているが、98年の時点では数少なかった。6システムのうち五つは稼働中で、品質情報管理は年内稼働を目指す。

 これらのシステム開発を裏で支えてきたのが、独自開発の「Javaフレームワーク」である。Javaフレームワークとは、アプリケーションのひな型をあらかじめ用意することで、開発の効率化を狙ったソフト開発・実行環境のこと。Javaで大規模のシステムを構築するうえで不可欠なもので、オープンソースの「Struts」がよく知られている。

 しかし98年当時、フレームワークは自ら作成するしかなかった。そこで、クボタのシステム企画や開発、運用を一手に引き受けるシステム子会社であるクボタシステム開発(KSI)は、「なにわフレームワーク」という独自フレームワークを99年に完成。さらに機能を追加・修整した「なにわPlusフレームワーク」を2002年に整備した(図1[拡大表示])。その後も改善を続けている。

図1●クボタのシステム子会社、クボタシステム開発が進めた一連のJava開発プロジェクトの経緯

 KSIはフレームワークを整備するにあたり、使い勝手にとことんこだわった。「システムの使い勝手が悪いせいで、ユーザーの業務改善に支障が出るようなことがあってはならない。Javaのような新しい技術を使う場合でも、そのことは同じだ」。KSI企画コンサル部長の南出武は、こう言い切る。

 Javaフレームワークを整備する作業は一筋縄ではいかなかった。特にJavaがまだ一般的でなかった98年からしばらくは、原因不明の不具合に悩まされた。Webアプリケーションの操作性をどう改善するかも考える必要があった。

 KSIは妥協することなく、これらの問題を一つひとつ解決していった。「開発費用は公開できないが、相当な費用をつぎ込んだ」と、フレームワーク整備を担当した第一ソリューション事業部課長の松井伸夫は証言する。そのかいあって、クボタは「Java導入の先進企業」の仲間入りを果たした。

「試験的に使うなんてダメだ」

 「試験的にJavaを使いたいだって? とんでもない、そんなのはダメだ!」。役員の鋭い声が重く響く。その前には、がっかりした表情の南出がいた。98年2月のある日、KSIの企画会議での出来事である。

 「これからWebコンピューティングの時代が来る。そのときの開発言語はきっとJavaだろう。実際の基幹システムで本当にJavaが使えるかを検証したい」。こう考えていた南出は、クボタ向けのある小規模システムの構築で試験的にJavaを使うことを提案したのだった。しかし、見事に拒絶された。

 その翌日、南出の提案を却下した役員が、南出に向かって力強く語りかけた。「試験的じゃなく、大々的にJavaに取り組め」。「えっ?」。狐につままれた表情の南出に、役員は説明を続けた。Javaを使うことに反対したわけではない。試験的などと腰の引けた言い方に反対したのだ。どうせやるなら、基幹システムの構築を効率化できるフレームワーク作りまで目指せ―。

 南出は即座に計画を練り直した。プロジェクト名は「なにわプロジェクト」。「大阪発の“コテコテ”のお笑いのように、泥臭くてもいいから業務で通用する現実的なものをわれわれの手で作っていこう」。南出はこうした思いを込めて命名した。最終目標は「業務プロセスやJavaの画面部品などに関するひな型(フレームワーク)を整備することで、電気やガス、水道のように、ユーザーが必要なときに必要なシステム機能を利用できるようにする」こととした。

 98年5月、南出はなにわプロジェクトの企画を役員会に提出。今回はすんなりと通った。こうして、プロジェクトは正式にスタートした。

既存の業務ロジックをそのまま使用

 なにわプロジェクトは、(1)独自フレームワーク「なにわフレームワーク」の整備、(2)なにわフレームワークによるクボタの生産管理システムの再構築、という二本柱で進めることにした。生産管理システムはちょうど再構築時期を迎えていた。


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