複数のサーバーやパソコンの計算能力をかき集めて利用する「グリッド・コンピューティング」の業務利用が始まった。大量の数値演算を高速に行う場合、従来はスーパーコンピュータなど専用のハードウエアを購入してシステムを構築する方法が主流だった。しかし、グリッド技術を使えば既設のサーバーやパソコンの計算リソースの活用が可能である。この点に注目し、処理時間の大幅な短縮をもくろむ企業が現れてきた。

(坂口 裕一)


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 ネットワークに接続された複数のサーバーやパソコンから、必要な時に、必要なだけの計算能力を引き出す技術が「グリッド・コンピューティング」である。研究や実験は以前から行われており、考え方自体は決して目新しいものではない。しかし最近になって、研究所などでの利用から、ビジネスへとその用途が変わりつつある。

 オフィスには、一昔前のスーパーコンピュータの処理速度に匹敵するとも言われる高性能なパソコンが数多く導入されており、それらは10Mまたは100Mビット/秒のLANで接続されている。ところが、通常の事務作業ではプロセサの利用率は平均10%にも満たないし、夜間はまったく使われていない。

 こうした“もったいない”状況と、ITコストを削減しようとする動きが一緒になり、グリッド・コンピューティングに熱い目が注がれている。

高価なハードを買わずにすむ

図1●グリッド・コンピューティングの位置づけ。科学技術計算をする専用コンピュータが高価であることをきっかけに、グリッド・コンピューティングの技術が誕生した。汎用の部品を利用してサーバー・クラスタを構築する方法と、ネットワークに接続した多くのパソコンの計算能力をかき集めて利用する方法の二つがある。グリッド技術の発展型として、運用管理への応用も考えられている
 これまで複雑で大規模な数値演算は、専用設計の高速なプロセサ(ベクトル型プロセサ)を搭載したベクトル型スーパーコンピュータや、汎用のプロセサを1000個単位で搭載するスカラー型超並列コンピュータで行われることが多かった(図1[拡大表示])。こうしたハードウエアは数値演算処理の専用機であり、数多く売れるものではない。価格はどうしても高くなる。この問題を解決するのが、グリッド・コンピューティングだ。

 グリッドを構築するには大きく二つのパターンがある。図1の「パターン1」は、ビジネス向けに広く使われているラックマウント型のサーバーなどを使うもの。汎用のサーバーを使うので、コンピュータを新たに購入したとしても、スーパーコンピュータなどに比べて安くすむ。

 7月には富士通がサーバー1024台(2048プロセサ)を接続したシステムを理化学研究所に、日本IBMがサーバー1058台(2116プロセサ)を接続したシステムを産業技術総合研究所に納入すると発表した。汎用サーバーを組み合わせたグリッド・システムで大量の科学技術計算をこなそうというわけだ。

 もう一つのパターンが、図1の「パターン2」だ。社内LANに接続している既設のパソコンを利用する。ハードウエアの新規導入は必要なく、グリッドを構築するミドルウエアを導入するだけでよい。まずパターン2に相当する、大日本印刷、ニッセイ基礎研究所、富士通が取り組んでいるグリッド・コンピューティングの事例を見てみよう。

図2●大日本印刷が業務利用を決めたグリッド・システムのデモンストレーション。デモンストレーションなのでノート・パソコンの画面に請求のイメージを表示している。実際の運用時にはユーザーがパソコンを使っていない時に動作し、画面はスクリーン・セーバーになる

事例1 大日本印刷
請求書の印刷データを
3分の1の時間で作成

 大日本印刷は10月末をメドに、グリッド・コンピューティングの仕組みを業務処理に適用する(図2[拡大表示]はデモンストレーションの様子)。研究開発用途ではなく、業務システムでグリッドを利用する例はまだ珍しい。

 具体的には、データベースに格納した請求データから、大型プリンタで請求書を印刷するためのイメージ・データを生成する処理を、6台のデスクトップ・パソコンによるグリッドで行う。各パソコンは動作周波数2GHzのPentium 4プロセサ、512MBまたは1GBの主記憶を搭載。従来はこの処理を1台のサーバーで処理して3時間程度かかっていたが、パソコン6台の分散処理では3分の1の55分に短縮できた。


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