1000人以上のエンドユーザーを対象に、SAPジャパンのERPパッケージ「R/3」の主要モジュールを全社導入する“SAP大規模導入プロジェクト”が増えている。しかし、プロジェクトが大規模化するに従って、難航プロジェクトが増えているのも事実。当初の予算を超過したり、稼働予定日が遅れることも珍しくない。なかにはプロジェクトを一時中断したり、白紙に戻すこともある。大規模導入に挑む各社で何が起きているのか、最新事例を徹底取材した。

(井上 理)

難航プロジェクトの実像:費用増大にもがき苦しむ大企業たち/B>
解決への糸口:アドオン徹底削減への挑戦


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難航プロジェクトの実像
費用増大にもがき苦しむ大企業たち

 「導入を決めた時点で何億円ものお金が飛ぶのはいかがなものか」―。SAPジャパンのイベント「SAPPHIRE ’03」の目玉として、7月5日に行われたパネル・ディスカッションで、日本コカコーラの小川暁CIOがこう語ると、会場はどっとわいた。R/3の大規模導入に多額のコストが必要な現状への不満を、ベンダーを目の前にして公言したからだ。

 SAPジャパンのERPパッケージ(統合業務パッケージ)「R/3」の会計と物流関連の主要モジュールを、1000人以上のエンドユーザーを対象に全社規模で導入する「大規模R/3導入プロジェクト」が増えている。と同時に、要件定義やアドオン開発が難航し、多大な追加出費を余儀なくされる大規模プロジェクトも増えてきた。「R/3プロジェクトはとにかく金がかかる」とする見方は強まる一方だ。

 R/3大規模導入の道は平坦ではない。通常、大規模導入は現場を巻き込みながら複数のR/3プロジェクトが別々に進行する。プロジェクトの数に比例して、社内調整や全体の管理は難しくなる。事業部への権限移譲を進めるカンパニー制を導入している場合は、さらに取りまとめが難しい。

 開発規模が大きいため社内のリソースだけで導入作業をこなすことができず、外部のコンサルティング会社やベンダーに依存せざるを得ないのも難航する要因だ。コンサルタントの作成する業務要件は理想に走り、R/3の標準機能とかけ離れていることが多いからだ。そのため設計作業が遅れ、結果として膨大なアドオン開発を余儀なくされる。当然、追加の開発コストも膨大なものになる。

 連結売上高2兆1800億円を誇る三洋電機は、まさにこうした大規模導入ならではの壁に直面している。

全社を統率できずプロジェクト中断
[三洋電機の苦悩]

 三洋電機の大規模R/3導入プロジェクトは混迷のただ中にある(図1[拡大表示])。本誌の取材によれば、現在R/3システムは国内1カンパニーといくつかの海外子会社で稼働しているものの、少なくとも国内で二つの主要なR/3プロジェクトが一時中断した。アドオンが膨らみ、コンサルティング会社やベンダーの見積もり額が予算をはるかに超えたからだ。

図1●三洋電機全体のR/3プロジェクトの実態。基本的に会計システムとコンシューマ製品の営業システムは本社主導、生産管理や販売/在庫管理などの物流関連のシステムは各カンパニー主導で進めてきたが、昨年から今年にかけて双方ともにトラブルが生じている

 同社のプロジェクトは、会計と物流関連の主要モジュールを全社導入するという巨大なもの。実際には各カンパニーの主導で複数のR/3プロジェクトが進んでいるが、プロジェクト全体のとりまとめ役を欠いたことが混迷の大きな原因となった。この点について、三洋電機は「導入中のプロジェクトに関してはコメントを差し控えたい」(広報)としている。

 三洋電機は1999年、業務改革を全社的に断行することを決め、そのツールとしてR/3を利用する指針を出した。2001年3月には、2003年度までの3カ年を対象とした中期経営計画「チャレンジ21」を発表。業務改革とIT化に3年間で400億円を投じるとし、その中核組織となる「IT・ERP推進室」を立ち上げた。

 ミッションは、1730ユーザー分のライセンス管理と、全社のR/3導入プロジェクトの統括。IT・ERP推進室は、決算や共通の顧客・仕入先に対するSCM(サプライチェーン管理)といった全社共通の機能を各カンパニーと共同でテンプレート化し、全社のR/3システムの早期導入を促すとしていた。昨年の本誌取材で、当時IT・ERP推進室長だった上田治文氏は、「ほとんどの機能追加がパラメータの変更だけですむようになる」と答えている。

 ところが今年8月になっても、全社共通のテンプレートは一つも完成していない。IT・ERP推進室の主導で進めた営業システムのR/3プロジェクトは、今年7月に中断した。半導体を扱うセミコンダクター(セミコン)カンパニーのプロジェクトも昨年10月に一時中断し、大幅な計画の見直しを行った。

今年7月に営業システムの計画が中断

 営業システムの再構築は2000年に始まった。家電、AV機器、携帯電話といったコンシューマ製品の販売を一元管理するシステムで、大手量販店などへの納期回答を早める狙いがあった。

 複数カンパニーにまたがる“インターカンパニー”プロジェクトだったため、2001年から本社の主導でプロジェクトを進めた。IT・ERP推進室の上田 前室長は2001年春の本誌取材時に、「生産管理などのシステムは各カンパニーごとに構築すればよいが、受注は窓口を一つにしないといけないので、本社主導で行う。2003年4月の本稼働を目指す」としていた。

 ところが、インターカンパニー・プロジェクトならではの難しさが、要件定義などの上流工程で露呈した。2001年春に上田 前室長は、「月次から週次へ生産計画を変更するに当たり、現場の作業が煩雑になるため、各カンパニーともめた」と話している。

 あるプロジェクト関係者は「予算は各カンパニーがねん出するが、プロジェクトは本社主導。お金を出す人、決定する人、プロジェクトを進める人がバラバラで、それぞれの思惑も異なっていた。これを本社側でまとめる力も足りなかった」と証言する。

 上流工程の作業は、朝日アーサーアンダーセン(現ベリングポイント)、日本IBM、SAPジャパンが担当した。2001年から具体的なシステムの開発計画に着手したが、「アドオンによる開発が膨れたため、日本IBMによる見積もり額は予算をはるかに上回る約50億円になった。この時点でプロジェクトは凍結状態に入った」(関係者)。

 三洋電機は今年4月、将来の持株会社制への移行をにらんで企業グループ制を導入し、11のカンパニーを四つの企業グループに再編した。カンパニー制を前提としてプロジェクトがスタートしていたこともあり、本社主導で進めていた営業システムのプロジェクトは今年7月、正式に解散した。今後は、コンシューマ製品を手がけるコンシューマ企業グループのIT部門が再度検討し直す方針だという。


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