証券各社がバックオフィス業務の改革に相次いで乗りだした。注文から決済まで一貫処理、いわゆる「STP(Straight Through Processing)」の実現を目指して、システムを全面的に刷新する。市況の先行きが不透明のなか、事務コストの削減と顧客サービスの向上をいっそう進めるためだ。大手・準大手各社の動きに迫った。

(大和田 尚孝)

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STPを極める リアルタイム処理の基盤を構築
実現前夜 既存システムを生かすか捨てるか


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 証券業界は今、基幹系システムの再構築ラッシュを迎えている。大手では大和証券グループと日興コーディアル証券で基幹系の刷新プロジェクトが進んでいる。準大手クラスでは新光証券と岡三証券が再構築に挑戦中。UFJつばさ証券は今年6月、他社よりもひと足先に新システムを稼働させた。

 同じ業界に属する複数の企業が一度にシステム刷新に取り組むのは、最近では珍しい。証券業界でいったい何が起きているのか―。

STPの実現が不可欠に

 その答えは、「生き残り戦争」である。1990年代後半の規制緩和、いわゆる「金融ビッグバン」以降、証券各社の存亡をかけた競争はその激しさを増している。市況が冷え込むなか、インターネット専業証券との競合も激化している。従来型の証券会社を取り巻く状況は厳しい。野村証券の金澤 亨IT戦略部次長は、「限られた手数料収入で利益を確保できる体制作りが生き残りには欠かせない」と力説する。

 そのための解がシステム刷新だ。「バッチ中心の従来型システムから脱却すれば、事務処理コストをいっそう削減できる」と各社は期待する。各社の基幹系システムは従来、約定から決済までのバックエンド部分で、バッチ処理が中心だった。売買代金の清算や証券の受け渡しといったバックオフィス業務のために、担当者を営業店に配置するなど、膨大な手間とコストがかかっていた。

 そこで各社は、バックオフィスの業務改革を急ぐ。営業店のバックオフィス業務担当者を集約・削減することで、1取引当たりのコストの削減を目指す。この業務改革に欠かせないのが、バッチ・システムのリアルタイム化である。注文から決済までの処理をリアルタイムでこなす「STP」を実現する。これにより営業担当者がシステムの助けを借りて、注文から決済に至る処理をこなせるようになる。結果としてコスト削減の道が開ける(図1[拡大表示])。

図1●証券各社がシステム刷新に乗り出す背景

 STP化のメリットは、まだある。大和証券SMBCの永松隆司T+1プロジェクトリーダー部長は、「注文から決済までのスピードが向上すれば、それに伴って決済リスクも減る」と強調する。大和証券グループでホールセール(法人向け取引)業務を手がける大和証券SMBCは、リテール(個人向け取引)業務を手がける大和証券や持ち株会社の大和証券グループ本社と協力して、STPを実現する新基幹系システムを構築中だ。2005年度をメドに本格稼働させる。

 STP化によって証券会社のバックオフィス業務は変貌する。帳票がなくなり、ヒトも減る。証券やカネの流れが大きく変わる。日興コーディアル証券の小森由夫システム統括部副部長兼業務システム課長は、「単にSTPを実現するシステムを作るだけでは不十分。同時に業務改革を断行しなければコスト削減は実現できない」と説く。日興コーディアル証券も2004年度の稼働を目指して、STPを実現する新システムを構築している真っ最中だ。

 STP化のメリットを享受するためには、証券業界全体のインフラ整備が不可欠だ。ここにきて決済制度の改革やペーパーレス化といったSTP化を後押しする制度施行のメドが相次ぎ立った。証券各社は、こうした業界の制度改革に歩調を合わせて、STPの実現に邁進している。

STPを極める
リアルタイム処理の基盤を構築

 STPの実現で証券会社の基幹系システムはどう変わるのか。各社の現行基幹系システムは、フロント系とバック系の二つに大別できる。このうちSTP化で大きく変わるのはバック系システムだ。


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