システム統合を終えたメガバンク(大手銀行)の間で、基幹系システムを根本的に再構築する動きが出てきた。現行の第3次オンライン・システムを緩やかに解体し、数年かけて変化に強いシステムに作り直す。併せてインターネットを駆使した新商品・サービスと新チャネルの開発に取り組む。銀行業界におけるシステム化の最新動向を報告する。

(矢口 竜太郎)

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みずほ銀行は今
中・長期構想 数年がかりで次世代システムに移行
現在~短期構想 インターネットを前提に商品/サービス開発
顧客との関係強化に乗り出す地方銀行


【無料】サンプル版を差し上げます本記事は日経コンピュータ2003年6月2日号からの抜粋です。そのため図や表が一部割愛されていることをあらかじめご了承ください。本「特集」の全文をお読みいただける【無料】サンプル版を差し上げます。お申込みはこちらでお受けしています。なお本号のご購入はバックナンバー、または日経コンピュータの定期ご購読をご利用ください。

 今年3月、UFJ銀行の経営会議で、あるIT戦略が承認を受けた。新しい戦略の名称は「UFJ Broadband Banking」。ブロードバンド・ネットワークが社会基盤として定着する数年後をにらんで、同行のシステム像や業務プロセスを大きく見直すというものだ。戦略のなかには、1980年代前半に設計された現行の基幹系システム(第3次オンライン・システム)の刷新も盛り込まれている。Linuxを搭載したIA-64サーバーを積極的に採用し、ITコストを低減する。アプリケーションは商品/チャネル別に、Javaコンポーネントとして開発し、柔軟性を高める。

 同じく3月、東京三菱銀行が半期に一度開いている、経営陣によるIT戦略の検討会で、ある方針が説明された。その方針とは「行内のすべてのシステムが順守すべき基本アーキテクチャを明確に定める」というものだ。今後同行では、再構築したり新規開発するシステムを、すべてこの基本アーキテクチャに従って作る。東京三菱銀行版の「エンタープライズ・アーキテクチャ」である。その対象には、基幹系の第3次オンライン・システムも含まれる。これにより開発生産性の向上やITコストの削減を実現する。

3次オンラインの解体が始まる

 メガバンク(大手銀行)の間で、次のシステム像を模索する動きが出てきた。基幹系システムの全体像をもう一度見直し、より変化に強いシステムを作るのが目的だ(図1[拡大表示])。

図1●メガバンクを取り巻く状況とシステム面の対応

 各行の基幹系システムの基本設計は、おおむね1980年代後半に稼働した第3次オンライン・システムを踏襲している。基本設計から20年ほどが経過し、老朽化は否めない。アプリケーション・モジュール同士がきちんと分離されておらず、「あるモジュールをちょっと手直しするにも、他のモジュールへの影響を考える必要がある」(UFJ銀行の村林 聡システム企画部長)。

 拡張に拡張を重ねてきたため、全体を見わたすことも難しくなってきた。第3次オンラインの設計・構築に携わったベテランは、まもなくリタイアの時期を迎える。メインフレーム中心であるため、運用コストも高い。

 各行は1990年代半ばから、第3次オンライン・システムの再構築を研究してきた。だが規制緩和に伴う新商品・サービス向けシステムの開発、西暦2000年問題への手当て、さらには合併に伴うシステム統合作業に追われ、再構築構想は先送りになっていた。

 もう限界だ。システム統合を終えた東京三菱銀行とUFJ銀行は次の一手として、第3次オンライン・システムの“再構築”を決断した。

 ただし今回の再構築は、これまでのように主要システムを一斉に刷新するものではない。4~5年かけて次期システムに緩やかに移行する。一斉刷新は投資負担が大きい割に、経営への貢献が少ない。再構築の期間中、新商品・サービスの投入を凍結するのは無理がある。アクセンチュアで金融業を担当する関戸亮司戦略担当パートナーは「まずは全体像を明確にした後、4~5年かけて現行システムを商品別、チャネル別などの小さな単位に作り直すのが現実的」と指摘する。機能ごとに逐次再構築できるため、変化に強いシステムになる。

 東京三菱銀行とUFJ銀行が描く次期システム像は、いずれもオープン系サーバーを適材適所で利用する。メインフレームに実装していた機能を細かく切り出し、オープン系サーバーで動かす。これにより運用コストを下げる。

 4大メガバンクのうち、三井住友銀行は1994年に稼働した旧住友銀行の基幹系システムをベースにしている。100程度の営業店を一つのグループ(店群)として扱い、それぞれにサーバー(NEC製メインフレーム)を割り当てるなど、他のメガバンクよりも設計が新しい。このため「現時点では大きな見直しをする必要がないと考えている」と三井住友銀行の井上宗武情報システム企画部副部長は強調する。その一方で同行も「変化に強いシステムを目指して、新案件にはUNIXサーバーを積極的に採用している」という。

 残るメガバンクのうち、みずほ銀行はまだシステム統合を終えていない。来年10月の完了を目指して、統合作業の真っ最中だ(「みずほ銀行は今」を参照)。これが無事に終われば、何らかの策を打ち出すはずだ。

みずほ銀行は今

 みずほ銀行は昨年4月の合併直後に起こった一連のシステム障害により、システム統合のスケジュールを大幅に見直さざるを得なくなった。現在は来年4月から、旧富士銀行の顧客データを半年程度かけて旧第一勧業銀行の勘定系システムに移行する計画だ。それまでの間は、二つの勘定系をリレー・コンピュータで接続して動かす状態が続く。運用コストがかさむだけでなく、新商品・サービスの提供にも、制約が出ている。

 しかし統合までの間、完全に逼塞しているわけにもいかない。同行もここにきて一部の商品・サービス向けシステムの統合に乗り出した。

図A●みずほ銀行はインターネット・バンキングのシステムから統合を始めた

 例えば今年3月に、インターネット・バンキング・サービスの一本化を成し遂げた。旧第一勧業銀行、旧富士銀行がそれぞれ提供してきたサービスを「みずほダイレクト」という名称で統合した。これにより、旧富士銀行の利用者でも、旧第一勧業銀行で行っていた独自のサービスを受けることができるようになった(その逆も可能)。これまでは旧第一勧業銀行のインターネット・バンキング用Webサイトから、旧富士銀行のサービスは利用できなかった。それどころか残高照会もできなかった。

 インターネット・バンキング用の新システムは旧富士銀行のものをベースに構築した。旧第一勧業銀行のサービスを動かしていた富士通製UNIXサーバーから、新システム用の日本IBM製UNIXサーバーに、旧第一勧業銀行分の登録者データ約60万件を移行した。「これだけの規模のデータを移行するのは、みずほ銀行ができてから初めて」と個人商品開発部リモートチャネルチームの竹田茂次長は証言する。

 移行作業は3月7日金曜日の午後3時から12日水曜日の午前9時までサービスを一時停止して実施した。大手銀行が、平日にサービスを停止するのは非常に珍しい。移行作業自体は8日土曜日中に終わっていたが、「もうトラブルは許されないので、大事を取って本番環境でのテストを水曜日朝まで繰り返した」(竹田次長)。

 今回の統合により、「インターネットでは、新商品を追加する土台ができた」と竹田次長は期待する。


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