国内シェア第1位、世界第3位の国内有力ITベンダー、富士通。2年連続の減収減益と業績が低迷するなか、稼ぎ頭として同社を引っ張るのが、システム構築やアウトソーシングなどのソフト・サービス事業である。
しかし、好調に見えるソフト・サービス事業も多くの問題を抱えている。技術の空洞化や行き過ぎた拡大路線の進行―そしてこれらの問題が引き起こす顧客満足度の低迷である。
ソフト・サービス事業の行方は同社の浮沈にかかわる。富士通のソフト・サービス事業でいま何が起こっているのか。そして富士通は、どうこの問題を解決しようとしているのか。富士通の「復活への指針」を探る。

(高下 義弘)

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病巣:低迷する顧客満足度、空洞化する技術力 ---- 富士通の抱える根深き問題
行動:「顧客密着型の組織」へ踏み出した富士通 ---- ノウハウの乏しい本体SEを鍛え直す
提言:業務知識とJavaで“顔”をつくれ ---- 富士通はユーザーからの愛に全力で応えよ


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病巣

低迷する顧客満足度、空洞化する技術力
富士通の抱える根深き問題

 「困っているんです。なんでウチの会社は顧客満足度が上がらないんでしょうね」―。富士通 ソフト・サービス事業推進本部の幹部社員は今年もまたため息をついた。

 この幹部社員の悩みは、決して今に始まった話ではない。日経コンピュータが実施している顧客満足度調査の結果を見てほしい()。過去数年の間、日本IBM、NEC、日立製作所といったライバル企業の後塵を拝してきた。

どんな調査でも顧客満足度は「低」

 ある富士通社員によると、「日経コンピュータの顧客満足度調査で低い評価が出て以来、社内の各部門が調査会社に何度も顧客満足度調査を依頼してきた。しかしどの調査も低い満足度を示す結果に終わった」という。

順位1998年12月1999年12月2000年12月2002年12月
1日本IBM日本IBM日本IBM日本IBM
2日立製作所日本ユニシス日本ユニシス日本ユニシス
3日本ユニシス日立製作所日立製作所NEC
4NECNECNEC日立製作所
5富士通富士通富士通富士通
*日経コンピュータの「顧客満足度調査」より
表●システム構築関連サービスに対する顧客満足度の推移*

 「一体どういうことだ。この結果には納得できない。調査方法を確認してくれ」。富士通 システムサポート本部の幹部社員は、不満げにこう言い放った。同本部は米大手調査会社、NFOプログノスティクスに富士通の顧客満足度について調査を依頼した。このコメントは、2001年春に富士通社内で開催された、調査結果の報告会におけるもの。最近まで同社には、この事実を素直に受けいれられない社員がいた。

 「富士通の顧客満足度が低いのは、トップ・メーカーで顧客の期待が高いからだ」。ある研修会の場で、幹部社員は部課長クラス約200人を前にしてこう述べた。確かにこうした見方もできるだろう。だが、同社の顧客満足度が低迷し続けているのは事実だ。

 しかも、富士通の秋草 直之社長は顧客満足度を向上するための「全社CS(顧客満足度)運動」を1998年ごろから展開してきた。にもかかわらず成果は上がっていない。顧客満足度の低迷は、巨艦・富士通の苦悩を象徴している。

技術力の空洞化が元凶

図1●富士通の営業利益の構成(2002年度決算)
 富士通の稼ぎ頭である、ソフト・サービス事業(図1[拡大表示])。しかし、そのソフト・サービス事業では起きてはならないトラブルが続いている。5月8日に富士通が全面的にシステムを手がけているジャパンネット銀行で、大規模なシステム障害が発生した。地銀向け勘定系システム用パッケージ・ソフト「PROBANK」の開発は遅れに遅れ、地銀の採用見送りが相次いでいる。

 ソフト・サービス事業におけるこうしたトラブルは、顧客満足度の低下に直結する。その奥には、同社のソフト・サービス事業が抱える構造的な問題が潜んでいる(図2[拡大表示])。

 顧客満足度が低迷している最大の理由は、技術力の空洞化である。協力会社に依存し、富士通本体でシステムの設計や開発を手がける機会が少なくなっために、システム構築の能力全般が低下している。技術力の低下は、顧客へのサービスやシステムの品質に直接影響する。他の大手ベンダーでもこうした問題が存在しないわけではないが、富士通は外部への依存度合いがとりわけ高まっている。

 そもそも富士通の競争力の源泉は、幅広い層の顧客に密着することで得た、顧客の業務知識だった。だが事業規模を拡大するに連れて、外部への「丸投げ」が横行し、業務知識が社外に流出してしまったのである。

図2●富士通の顧客満足度低下の構図

 富士通のユーザーである資源関係大手企業のシステム部長は、「富士通本体のSEはマネジャと称して高い単価を請求してくるが、実際には工程管理やトラブルへの対処など、マネジャらしい仕事をしているようには見えない」と話す。

 丸投げが常態化した結果、富士通にはプロジェクトの開発規模やリスクを見積もることのできない“マネジャ”が極端に増えている。「実際には、下請け会社のベテランSEが、マネジャの仕事を肩代わりしている」(富士通の大手ユーザー企業のシステム部長)。

 富士通の斑目 廣哉経営執行役専務 ソフトサービスビジネスグループ長も、「パートナー企業にプロジェクトを任せてしまっている面は否定できない。設計や開発の経験を十分に積まずに、本体のSEが管理者になっている現状はある」と認める。本来、プロジェクトの司令塔となるべき本体SEのシステム構築能力の低下は、グループ全体に波及するだけに深刻な問題だ。

無理な拡大が破綻を呼ぶ

 経験の浅いSEをマネジャとして送り込んだり、協力会社への丸投げが常態化する背景には、行き過ぎた拡大路線が存在する。あるITコンサルタントは、「他のベンダーと比較してみると、富士通の場合は特に営業が無理を承知で案件を獲得し、開発のリソースが付いていかない案件が散見される。IBMに追いつき追い越せ、という文化が今も残っている」と分析する。ある富士通社員も、「富士通は売り上げや利益、シェアなど、とにかく数値がすべて。他社のユーザーを富士通にひっくり返すことにひたすら力を入れてきた」と話す。

 営業の拡大路線がPROBANKプロジェクトの崩壊を呼び込んだという意見がある。富士通技術部門のある幹部は、「営業幹部がSEのリソースを考えず、無理に新規顧客を開拓したのが一番大きな原因だ」と話す。

 PROBANKに限らず、営業優先で伸びきった“補給線”は、プロジェクトの難航や顧客のサポート不足につながり、顧客満足度の低下を引き起こす。記者が取材したユーザー企業からは、「どのベンダーもそうだが、富士通は特にSEの質が落ちた。社全体の反応も以前に比べて遅い」という声が数多く聞こえてきた。

 顧客への反応が遅くなったことには、富士通が90年代前半に打ち出した利益追求の方針も大きく影響している。富士通と仕事をした経験のあるITコンサルタントは、「利益至上主義で開発現場が萎縮している」と話す。このため、SEが極端に赤字につながるミスを嫌う傾向が強くなり、「顧客から要望を受けても現場で決められず、常に上司の判断を仰がないと動けないようになっている」(同)。


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