今どきの基幹系システム構築は「早く・安く」が当たり前。その強力な武器となるERPパッケージ(統合業務パッケージ)は「第2次ブーム」を迎えている。だが、SAPやオラクルなどの海外製パッケージは必ずしも日本企業のニーズに合っていない。そこでもう一つの選択肢として、「国産パッケージ」が急浮上してきた。国産パッケージを選択したユーザー事例を通じて、導入のポイントを探る。

(島田 優子)

クボタ「使い勝手のよさ」が決め手
近畿車輌「この二つの機能は譲れない」
JR九州「開発元=インテグレータ」を重視
内外エンジニアリング独自開発もパッケージ開発元に依頼

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 ERPパッケージ市場は2002年で700億円弱。今後も2ケタ成長を続け、2005年には1000億円を突破する――。調査会社の矢野経済研究所は今年2月、このような予測を発表した。景気低迷の影響を受けてはいるものの、ERPパッケージの「第2次導入ブーム」は依然として衰える気配がない。

 そんななか、SAPジャパンの「R/3」、日本オラクルの「Oracle EBS(E-Business Suite)」などの海外製パッケージに交じって頭角を現しているのが国産パッケージだ。特に会計や人事などの業務をグループ会社で共有するシェアド・サービスの形態での利用が増えている。年間売上高が300億円以上の中堅・大企業の基幹系を対象とする国産パッケージの市場規模は、現時点で250億円から300億円程度。矢野経済研究所は、2005年に約430億円程度に成長するとみている。

 主要な国産パッケージは、エス・エス・ジェイ(SSJ)の「SuperStream」やNTTデータシステムズの「SCAW」、住商情報システムの「ProActive」、富士通の「GLOVIA/SUMMIT」、ワークスアプリケーションズの「COMPANY」など10製品を超える。ERPパッケージの定義を(1)会計から人事、販売・物流、生産まで基幹系システムの機能をひと通り備える、(2)一元化したデータベースを持つ、とするなら、これらの国産パッケージの多くは「ERPパッケージ」とは呼べない。

 それでも、海外製ERPパッケージと比較したうえで国産パッケージを選ぶユーザーが増えている。安価である、日本の商習慣に合う機能が豊富、日本のベンダーなので安心できるといった、海外製品にはない国産パッケージのメリットを評価したからだ(図1[拡大表示])。

図1●システム構築を検討している企業の悩みは、国産パッケージに目を向けることで解決できる可能性が高い

海外製より価格が1ケタ違う

 「早い段階で、海外製ERPパッケージは選択肢からはずした」。鉄道車両製造大手である近畿車輛の山西修 経営管理室課長は、こう証言する。同社は会計システムの再構築にあたり、2年をかけて自社の要件に見合うパッケージを探した。その結果、選んだのはSuperStream。「海外製パッケージは価格がひとケタ高かった。n対nの仕訳(詳細は後述)など欠かせない機能も備えていなかった」点が決め手となった。

 日立マクセル経理部経理ITプロジェクトの伊達明生主任も「国産パッケージを選んでよかったと実感している」と話す。日立マクセルはProActiveを利用して、連結対象となるグループ企業13社に会計システムを展開中。今年下半期に導入を終える予定だ。

 日立マクセルは、パッケージの開発元が日本企業のほうが何かと便利だと強調する。「海外製パッケージの開発元に質問したい場合、ちょっとしたことであってもパッケージの詳細なバージョンやシステム構成などを記述した正式な文書を提出しなければいけない場合が多い。日本ベンダーなら、気軽に質問ができる。こういったことが意外と重要」と伊達主任は話す。

 実際のところ、海外製ERPパッケージを導入している日本企業のなかで、ERPの真の狙いである「全社最適」を実現可能な形で導入しているのはほんの一握りにすぎない。この点からも、国産パッケージは現時点でERPの選択肢になり得ると言える。「景気の先行きが見えない昨今、情報システム予算はより厳しさを増している。よいシステムを安く構築できるなら、海外製だろうが国産だろうが“道具”は問わない」。人事・給与システムの構築にCOMPANYを利用したライオン統合システム部の宇都宮真利主任部員は、こう断言する。これが多くの日本企業のシステム部門の本音ではないだろうか。

ユーザー4社に聞く
国産パッケージを選んだ理由

 基幹系システムを新規構築または再構築するにあたり、なぜ国産パッケージを選んだのか。クボタ、近畿車輛、JR九州、内外エンジニアリングの4社の事例から探る。

 国産パッケージを選んだ理由は、4社とも異なる。クボタは海外製パッケージを“補完”するため、近畿車輛は「どうしても譲れない」という二つの条件を満たすことを考慮して、国産パッケージを選んだ。

 JR九州は「パッケージの開発元と導入を支援するシステム・インテグレータが同じである」ことにこだわった。パッケージと独自開発システムとの併用を考えていた内外エンジニアリングは、JR九州と同じように「パッケージの開発元が独自開発の部分も引き受けてくれる」ことを望んだ。

 各社が構築したのは、いずれも基幹系の中心部にあたる会計システムである。会計以外の分野のパッケージを選ぶ場合も、同じポイントが当てはまるはずだ。

クボタ
「使い勝手のよさ」が決め手

 基幹系で国産パッケージを使うパターンは大きく三つある(図2[拡大表示])。「海外製ERPパッケージと併用する」、「国産パッケージのみを使う」、そして「独自開発システムと併用する」だ。

図2●国産パッケージを基幹系で導入する典型的な三つのパターン

 クボタが採ったのは第1のパターン。国産パッケージで海外製ERPパッケージを補完することを狙った。具体的には、Oracle EBSで構築した会計システムのサブシステムである固定資産管理システムを、富士通の会計パッケージ「GLOVIA/SUMMIT」を利用して実現した。固定資産管理を含む会計システムは昨年4月から、まずクボタ本社内で利用している。決算業務の短縮化などの効果が明確になった時点で、全国各地の工場や関連会社への展開を進めていく考えだ。

 クボタは2001年6月に、Oracle EBSを使って会計システムを構築した。固定資産管理システムは、その際に先送りにしていた部分だ。開発を効率化するために、パッケージ・ソフトを使うことは前提となっていた。「会計システムを担当したインテグレータからは、整合性を考慮して『Oracle EBSの固定資産管理モジュールを利用すべきだ』と勧められた」とクボタ財務部の小林孝治マネージャは証言する。

 そこでクボタは固定資産管理システムで利用するパッケージとして、Oracle EBS、GLOVIA/SUMMITとほか1製品の合計3製品を検討した。その結果、インテグレータが推したOracle EBSではなくGLOVIA/SUMMITの採用を決めた。

Excelのマクロ資産も流用できる

 クボタがGLOVIA/SUMMITを選んだ最大の理由は、使い勝手がよい点だ。GLOVIA/SUMMITでは、Excelをクライアント画面として標準で利用できる。クボタは経理部門を含む社内全体で、Excelを標準の資料作成ツールとして使っている。「パッケージというと、使い勝手が悪いというイメージがある。Excelの画面から利用できるのなら、抵抗なく使ってもらえるのではないか」。クボタ財務部の坂田至功スペシャリストは、このように考えた。


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