「基幹系システムが稼働しているメインフレームをどうするか」―。今やユーザー企業の多くが、新規システムをオープン系で構築している。そのため「メインフレーム」と「オープン・システム」という二つの文化が混在してしまった。「可能ならオープン・システムで染めたい」というニーズは強い。移行のコストとのバランスを考えながら、将来的にメインフレームを撤廃するユーザー企業は増える。そうして5年後、“メインフレーム”は消滅する。

(戸川 尚樹)

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 多くのユーザー企業が、「メインフレームをどうするか」を真剣に考え始めた。と言っても、約10年前に起こったダウンサイジング・ブームの再来ではない。“前回”は、企業情報システムそのものであるメインフレームやオフコンをオープン系に移行することで、ハードやソフトのコストを削減できないかを考えるものだった。しかし今回、置かれている状況と目的は、昔と大きく異なる。

 結論から先に言うと、本誌はズバリ「5年後にはメインフレームはなくなる」と予想する。もちろん、異論を唱える読者は多いだろう。しかし、数多くのユーザー企業やベンダーを取材したところ、このような結論に到達した。

移行を促す五つの“風”

 ここ1~2年でメインフレームが見直され始めた理由を整理すると、五つの要因がある(図1[拡大表示])。ユーザー企業が置かれている環境によって各要因の重みは異なるが、複数の“風”が吹いていることは確かだ。

図1●今、メインフレームの見直しを考えるべき理由。五つの“風”がメインフレームを揺さぶる

 それぞれの要因の根底には、一つの重要な状況の変化がある。それは「企業情報システムのなかでオープン・システムが大きな割合を占めるようになった」という事実である。今や新規システムのほとんどは、オープン系で構築されていると言っても過言ではない。新しいタイプのシステムは、インターネットを中心としたオープン系の技術が必要とされることが多いからだ。短期間かつ低コストで構築するという要求は、数多くのベンダーから各種ミドルウエアや開発ツールなどが相次いで提供されるオープン・システムでなければ満たせないというのも、理由として挙げられる。

 こうした事情で、メインフレームで稼働する既存システムを基幹系として利用している企業では、オープン・システムとメインフレームが混在してしまった。それを何とかしたいというのが、一つ目の要因である。

二つの文化の維持は大変

 「当社にはメインフレーム、クライアント/サーバー型システム、Webシステムという大きく三つの文化が混在している。これは運用管理面で大きな負担だ」。今後数年間で既存システムが動いているメインフレームを撤廃する方向で基幹系の再構築を進めているキヤノン販売の島本勉IT本部IT開発部長は、こう語る。

 このように、「メインフレームとオープン・システムの混在を嫌う」ことをメインフレーム見直しの理由に挙げるユーザー企業は多い。それぞれで運用ノウハウが異なるため、両方の面倒を見ることが大変だからだ。さらに島本部長は、「ターゲットを一つにすることのメリットは大きい。システム担当者の技術力が高まり、開発スピードは向上する。開発コストの削減にもつながる」と、運用面以外の効果を強調する。

 ここで2番目の要因として見逃せないのが、メインフレーム文化を維持することが難しくなっているという点である。言い換えると、メインフレーム技術者が不足する傾向にある。前述したように現在の技術の主流はオープン系。若手を中心に、技術者の多くはJavaやWeb関連技術の習得に力を注ぐ。一方でメインフレーム技術者の高齢化が進んでいる。住友金属工業の三原裕二経営企画部企画グループ情報システム担当部長は、「当社のメインフレーム技術者の平均年齢は40~50歳ぐらい」と打ち明ける。

性能・信頼性は実用レベルに向上

 見直しに際して一番気になるのは、性能や信頼性の面である。オープン・システムに移行しても問題はないのだろうか。

 ここがクリアされてきたのが、三つ目の要因である。今回の取材では、ユーザー企業やメインフレーマ各社に、既存メインフレームとUNIXサーバーを使ったオープン・システムの性能、信頼性、コストを比較してもらった。大雑把にまとめると、結果は図2[拡大表示]のようになる。金融機関の勘定系システムやJRの座席予約システムなど、止まることが許されない公共性の高いサービスを提供している企業を除けば、「少なくともUNIXサーバーを使って基幹系システムを構築することは何ら問題がない」という意見が大半を占めた。

図2●オープン・システム(UNIXサーバーを利用)はメインフレームとあらゆる面で肩をならべつつある

 性能面では「厳密ではないが、メインフレームとUNIXサーバーはほぼ互角。もしくはUNIXサーバーのほうが上と見ていい」と、日立製作所の庄山貴彦エンタープライズサーバ事業部企画部主任技師は語る。キリンビールの関口克夫情報システム部部長補佐も、「UNIXサーバーの性能は、すでにに基幹系で使えるレベルにまで向上している」と言い切る。

 信頼性ではどうか。キヤノン販売の島本部長は「ここ1~2年、メインフレームが得意とする運用管理や大量帳票データの管理・出力といった領域で、UNIXサーバー向けの製品がかなり充実してきた。UNIXサーバーで基幹系システムを構築することは、信頼性の面で大きな問題はない」と断言する。富士通の佐々木一名プラットフォームビジネス企画本部Eサーバビジネス推進部長は「UNIXサーバーは、基幹系に使えるレベルにまで、ほぼ高まっている」と明言する。

 「オープン・システムでも大丈夫」と語る一方で、「自社製品以外を使うオープン・システムの構築よりも、メインフレームで構築していただいたほうがより信頼性の高いシステムが組めるのは昔と変わらない」(NECソリューションズの高田重光コンピュータ事業部統括マネージャー)という声もある。しかし、性能面、信頼性の面で、オープン・システムでも十分に基幹系を構築できるという結論を出しても大丈夫のようだ。

 コスト面については、確かにUNIXサーバーを使ったオープン・システムのほうが安いケースが多い。しかし、メインフレームのハード/ソフトは最近かなり低価格化してきた。その結果、オープン・システムへの移行で「コストが必ず激減する」とは言い切れない。オープン・システムは複数のソフトを使い、さまざまなパターンでシステムを組める分、場合によっては高くなることがある。マルチベンダー環境での運用コストまで考慮に入れると、メインフレームを100とした場合、オープン・システムは70~100といった感じである。

 キリンビールの関口部長補佐は、「今再構築対象の、メインフレームで作った基幹系システムをUNIXサーバーで再構築すれば、現在のランニング・コストの10~20%は削減できる」と見る。ワコールの三浦正義情報システム部長は、それほど期待しない。「オープン・システムに移行しても、メインフレーム時代に比べ、多くみて10%削減できる程度」。

 キヤノン販売の島本部長は、よりシビアである。同社はオープン・システムへの移行で、さまざまなベンダーから業務パッケージ・ソフトやミドルウエア、管理ソフトなどを購入している。「各ベンダーに支払うソフトの年間の保守サポート費用が馬鹿にならない。メインフレームよりも、運用コストがかえって高くつくかもしれない。コスト削減策を真剣に考えなくてはいけない」。


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 今回取材した中で、「当面、メインフレームを使い続ける」と答えたのはある銀行です。この銀行のシステム担当者は電話の向こうでこう打ち明けます。「ある都銀が勘定系システムにオープン・システムを採用しようとしたが失敗に終わり、大変な金額をどぶに捨てた。そういう事例を聞くとまだ時期尚早かなあと感じる」。この意見そのものを批判するものではありませんが、この話を聞いてこんなことを考えました。

 世間では「失敗学」というのか、「失敗からはたくさんの物事が学べる」という考え方が根強いように思います。しかし記者はそう思いません。誤解を恐れずにいうと「成功事例や成功している人から学べることは多いが、失敗から学べることなどあまりない」と考えています。他人の失敗というのは、自分が何かに挑戦しようとするときの妨げになることの方が多いのではないかと思っているからです。(戸川)