サーバー用Windowsの新版「Windows Server 2003」が4月にも登場する。処理性能の改善、運用管理の負担軽減といった現状の課題を改善したことに加え、大規模システムへの適用やWebサービスの積極活用を容易にするなど、将来を見据えた改良も施した。2003がユーザーにもたらすメリットは何か、情報システムにどのようなインパクトを与えるかを探る。

(原田 英生)

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 Windows Server 2003(以下2003)は、Windows 2000 Server(以下2000)に続いて3年ぶりに登場した後継OSだ。とはいえ、基本的にはマイナー・バージョンアップにすぎない(図1[拡大表示])。マイクロソフトが最初のWindows 1.0から一貫して付けているバージョン番号を見ると、2000は5.0、2003は5.2である。OSの中核部分の構造や機能には革新的と言えるほどの変化はない。

図1●1996年以降に出荷が始まった主なWindows製品。Windows Server 2003のバージョンは5.2。ちなみにWindows95は4.0であった

 2003に対するユーザー企業の反応は、現時点ではくっきり二分されている。「2003が出たら、できるだけ早く使いたい」。大規模なWindowsシステムの構築で知られるカブドットコム証券の阿部吉伸システム統括部長兼業務開発課長は、2003の登場を大いに歓迎する。「2000はWindows NT4.0(NT4)より断然良かった。2003もそうなると確信している」と阿部氏は続ける。

 しかし、カブドットコム証券のような積極派はまだ少ない。「当面は2003の様子を見る」という慎重派が大多数を占める。約1000台のNT4サーバーと約1万台のNT4クライアントを使った日本信販のシステム開発・運用に参画しているミスティフリップインターナショナルの小宮山哲司氏は2003を調査したところ、「今NT4をリプレースするなら、良い意味で枯れて安定している2000がベスト」と判断した。「2003はサービスパック(バグ修正ソフト)が1~2回提供されてから考えたい」と小宮山氏は語る。

 ユーザーの反応が今ひとつなのは、2003の“目玉”が見えにくいこともあるだろう。しかし、よく眺めると、ユーザーにとって魅力的な機能も少なくない。

 本特集では、ユーザー企業および主要ベンダーへの取材を通じて浮かび上がった、2003で重要だと思われる四つのポイントを解説する。具体的には、(1)Webサーバーの性能が改善される、(2)設置・運用が楽になる、(3)大規模システムに使える、(4)Webサービスを容易に利用できる、である。(1)の一部と(4)については、152~155ページの解説「インターネットの新たな利用を加速する」で説明する。

Point 1
Webサーバーの性能が改善される

 2003に期待する声として最も目立ったのは、「Webサーバーの性能が改善される」ということだ。マイクロソフトによれば、Windowsに付属するWebサーバー・ソフトIIS(Internet Information Services)を使った場合、2003は2001に比べて1プロセサ機で28~73%、4プロセサ機で71~118%、8プロセサ機で90~165%、性能が上がるという。

図2●Windows Server 2003の画面
図3●ボリューム・シャドウ・コピーの設定画面。ボリューム(ディスクの論理上の単位)内にある共有フォルダの内容を定期的にコピーしておくように設定できる
図4●図3のボリューム「F:\」にある共有フォルダ「public」のプロパティ画面。エンドユーザーが「以前のバージョン」タブにアクセスして、過去の状態を呼び出せる
図5●新API「ボリューム・シャドウ・コピー・サービス(VSS)」の利用例。ストレージ装置とサーバー・アプリケーションの連携で、バックアップに要する時間を最小化する

 2000に付属するIISのユーザーにとって、性能不足は切実な問題だ。「Webシステムはエンドユーザーに評判がよく、アプリケーションが急ピッチで増加している。これにIISの処理性能が追いついていない。IISが速くなるなら大いに期待したい」(ハザマの落合順一企画部情報システム室課長)。「Webシステムではメニューが出るまで20秒以内といったシステム要件を決めても、なかなかうまくいかない。IISが速くなるのであればうれしい」(東急コミュニティーIC事業部情報システム部開発プロジェクトチームの須藤信行氏)とユーザーは歓迎している。

 ただ、IISの性能向上は内部構造の大幅な変更によってもたらされたものだけに(詳細は後述)、2003のIISにはこれまで考えられなかったセキュリティ上の問題点が発見される可能性もある。その点には注意が必要だろう。

Point 2
設置・運用が楽になる

 ポイントの二つ目は、サーバーの設置や運用に携わる技術者の作業負荷を軽減できることだ。具体的には、標準設定の見直しと、バックアップ関連の新機能が目玉と言える。

 2000では、標準設定でIISをはじめとする多くのサーバー機能が有効になっていた。それがIISに対する不正アクセスなどを引き起こす要因となった。このため、技術者はサーバー設置時にそうした設定を変更して、サーバー機能を無効にする必要があった。この作業を「ロック・ダウン(lock down)」と呼ぶ。

 2003では標準の状態でロック・ダウンが施されている。「それで設置作業は格段に楽になる」と東京ガスのIT系子会社であるティージー情報ネットワークの基盤ソリューション部基盤エンジニアリンググループ、川島康弘氏は話す。

 2003のユーザー・インタフェースも、管理者にとって使い勝手のよい標準設定と言える。たとえば、図2[拡大表示]のスタートメニューの左上には、ロック・ダウンを解除する(サーバー機能を有効にする)ための新ソフト「サーバーの役割管理」、テキスト・コマンドを使う「コマンド プロンプト」、ファイルを操作する「エクスプローラ」が並ぶ。サーバー管理者の使用頻度に合った並びである。ミスティの小宮山氏は「マイクロソフトはサーバーを操作する管理者が何を求めているのか、よく研究している」と評価する。

 バックアップに関する改良点では、「ボリューム・シャドウ・コピー」と「ボリューム・シャドウ・コピー・サービス(VSS)」にも要注目だ。ボリューム・シャドウ・コピーは、ファイル・サーバーの共有フォルダに格納したファイルを誤って削除してしまった場合に、容易に復活できるようにする機能である。管理者は図3[拡大表示]の画面で共有フォルダの内容のコピーを作成し、他のフォルダに格納しておく。一定時間ごとに自動作成することもできる。ファイル・サーバーのユーザーは図4[拡大表示]の「以前のバージョン」タブを使って、ファイルを復元できる。

 2000は、ファイル・サーバーの共有フォルダのファイルを復活させる機能を持たなかった。「テープなどのバックアップ・メディアからファイルを復活させてくれ、という要求に、企業のヘルプデスクはかなりの時間を費やしていた」(小宮山氏)。

 一方のVSSは、ストレージ装置とサーバー・ソフトの連携を取るAPIで、大規模システムに求められる高度なバックアップを可能にする。図5[拡大表示]のように利用した場合、ストレージ装置は通常処理用のボリューム(ディスクの論理上の単位)から独自にバックアップ処理用のボリュームにデータをコピーする。ここで問題なのは、ボリューム間の切り離しを、どのタイミングで行うかということだ。無造作に切り離しを行うと、バックアップ処理用のボリュームに整合性のないデータが残る恐れがある。

 VSSは、この切り離しのタイミングを適切にとるための基盤を提供する。イーエムシー ジャパン マーケティング本部プログラム・マネージメント部の後藤哲也プログラム・マネージャーは、「これまではボリューム間の切り離しを行うソフトをストレージ・ベンダーが独自に作る必要があった。VSSを使えばその手間が大幅に減る」と語る。

Point 3
大規模システムに使える

 2003では、より大規模なシステム構築を可能にする改良も施されている。64ビット・プロセサ(インテルのItanium)への対応、クラスタ・ノード数の増加、リソース割り当てソフトなどがそうだ。


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 Windowsの購入を検討する場合には、使える期間も考える必要がありそうです。マイクロソフトは2002年10月17日に「サポートライフサイクルポリシー」を発表し、すべてのサポートを提供する「メインストリームサポートフェーズ」を、製品の発売から最短で5年間にすると述べました。

 Windows 2000のメインストリームサポートフェーズは2005年3月31日に終了予定で、2003は、おそらく2008年になるでしょう。当たり前と言えば当たり前ですが、Windows Server 2003はWindows 2000 Serverに比べて、サポートの終了時期が遠くなっています。

 もう一つ前のバージョンに目を向けてみましょう。Windows NT Server 4.0のメインストリームサポートフェーズは、すでに2002年12月31日に終了しました。終わるのはサポートだけではありません。マイクロソフトは2002年6月末にNT4のパッケージ販売を終了し、2003年6月末にはハードウエア・メーカーへの供給も終了します。NT4の終焉(しゅうえん)は、多くの企業ユーザーにとって重大な問題になっています。(原田)