ICタグの実用化に向けた動きは勢いを増す一方。ブレークするのは時間の問題だ。その半面、ICタグに対する誤解や理解不足はいまだに少なくない。今のうちに誤解を解き、正しい知識を習得しておかないと、導入時に混乱が発生するどころか、プロジェクトが中断しかねない。ICタグの導入に積極的なユーザー企業やベンダーなど50社への取材を通じて、ICタグを実用化する際に最低限知っておくべき35項目を解説する。

(栗原 雅、松浦 龍夫)

はじめの一歩 バーコードと何が違う? 他
コストに迫る 電波利用料は必ず支払う? 他
機能を見極める 半永久的に使えるってホント? 他
いざ導入 プライバシ問題にはどう対処すべき? 他
データで見る近未来 「無線ICタグ・システム調査2004」から


【無料】サンプル版を差し上げます本記事は日経コンピュータ2004年10月4日号からの抜粋です。そのため図や表が一部割愛されていることをあらかじめご了承ください。本「特集」の全文をお読みいただける【無料】サンプル版を差し上げます。お申込みはこちらでお受けしています。なお本号のご購入はバックナンバーをご利用ください。

 ICタグは単なるブームに終わらない。ブレークするのは2005年。ICタグの導入に取り組むユーザーを対象に本誌が実施した「無線ICタグ・システム調査2004」から、こんな実態が浮かび上がった。

図●ICタグの導入に向けた企業の取り組み状況。2005年には本格的にICタグの利用が始まる公算が大きい
 調査では、40%以上が実用化に向けてシステムを構築したり、実験を進めつつあると回答([拡大表示])。そのうち80%近くは、来年末までにICタグを使ったシステムの実用化を見込んでいることが分かった。調査対象がICタグの利用に前向きなユーザーであることを差し引いても、ICタグの実用化の波がすぐそこに来ているのは間違いない。

 国内外における企業の取り組み状況が、この調査結果を裏付けている。国内では成田国際空港が来年をメドにICタグの実用化に踏み切る。チェックイン・カウンタで受け取った旅客の手荷物を搭乗便まで運ぶ「バゲージ・ハンドリング」の完全自動化を目指す。成田国際空港の徳田彰士常務は「改修工事が最終段階に入った南ウイングで、ICタグによるバゲージ・ハンドリングの運用を始める」と話す。愛知県の第二地方銀行である名古屋銀行も来年4月、ICタグを使った債権書類の管理システムを稼働させる。

 海外では来年1月に実用化ラッシュが到来する。世界最大の小売業、米ウォルマート・ストアーズが主要サプライヤ約140社との物流業務でICタグの利用を開始。同時期に、米国防総省が最大で約4万3000社のサプライヤに対し、物資を納入する際にICタグの利用を義務づけるからだ。「ウォルマートからICタグの取り付け要請があった松下電器産業やソニー、三洋電機」(業界関係者)など国内の大手電機メーカーは、ICタグ実用化の準備を水面下で進めている。

誤解や意外に知らない事実が多い

 ICタグの実用化が現実味を帯びてきた一方で、新たな不安材料が持ち上がっている。ICタグに関する誤解や理解不足が極めて多いことだ。

「ICタグの価格が2年後に1個5円になる」というのはその典型例である。実際、一部の新聞や雑誌はこう報じている。だがこれは誤りで、タグの本体価格が5円になるわけではない。

 ICタグは、リーダー/ライターと呼ぶ装置と無線通信して情報を読み書きする。この通信に使う電波の周波数として、UHF帯(950M~956MHz)が注目を集めている。そのため「UHF帯で何でもできる」との誤解が後を絶たない。実際には、従来の13.56MHzや2.45GHzのほうが向く場合も多い。

 このほか、ICタグとリーダー/ライターとの通信距離をどう設定すべきか、複数の企業をまたがってICタグを使う際に誰がコストを負担すべきか、通常のシステム開発とICタグを利用するシステム開発では何が違うのかなど、ICタグを実用化する際に必要となる知識も、多くの企業に理解されているとは言いがたい。

 こうした状況は、(1)ICタグの利用実績が少なく、ノウハウが十分に蓄積されていない、(2)ICタグは無線技術を使っており、実際に現場で試してみないと分からない点が多い、といったことに起因している。ICタグの実用化に役立つ情報が、現状ではほとんど出回っていないのはこのためである。

 ICタグは来年、さまざまな分野で実用化元年を迎える。今がICタグの実力を正しく把握し、導入に向けて足場を固めるラストチャンスだ。