システム部門の“あるべき姿”については、さまざまな議論がされてきた。しかし、変革はなかなか成功しない。なぜ強くなれないのか。どうすれば強くなれるのか――。システム部門が強くなれない7つの理由を徹底検証した。

(戸川 尚樹、鈴木 孝知)

Part1 なぜ“企画”ができないのか?
Part2 なぜ部下は育たないのか?
Part3 なぜ人事交流はうまくいかないのか?
Part4 なぜCIOは“機能”しないのか?
Part5 なぜアウトソーシングは失敗するのか?
Part6 なぜ子会社売却はうまくいかないのか?
Part7 なぜ今どき“内製”にこだわるのか?
600号記念企画 日経コンピュータ システム部長会


【無料】サンプル版を差し上げます本記事は日経コンピュータ2004年5月17日号からの抜粋です。そのため図や表が一部割愛されていることをあらかじめご了承ください。本「特集」の全文をお読みいただける【無料】サンプル版を差し上げます。お申込みはこちらでお受けしています。なお本号のご購入はバックナンバーをご利用ください。

 日本のユーザー企業にシステム部門が誕生してから40年余り。今ほど、その存在意義が問われているときはない。

 今日の経営環境は、ギリギリの効率化・スリム化を企業に要求している。数年前のITバブルの反動もあり、経営層の口からは「情報システムは当社にとって、コア・コンピタンス(競争力の源泉)ではない」との発言が頻繁に飛び出す。システム部門の機能を分社化したり、ITベンダーにアウトソーシングする動きは止まらない。ほとんどの企業のシステム部門は、ここ数年縮小の一途をたどっている。

 その一方で、本体に残されたシステム部員に対する要求は年々厳しさを増している。少ない人数で、これまでのシステム部門の守備範囲を超えた仕事をこなすことが求められている。

変わりはじめたシステム部門

 もちろん自己変革の必要性は、当のシステム部門が最も痛感している。そのための策は講じてきた。

 経営層や利用部門の期待に応えるべく、企画機能の強化に躍起だし、業務改革を加速するような情報化プロジェクトを提案する能力を身に付けようと、組織や教育、人事の面でさまざまな手を打っている。CIO(最高情報責任者)を通じて、経営の意向をいち早くつかめるよう努力もしている。

 併せて、コスト削減とスピードアップの要求にも真剣に取り組んでいる。アウトソーシング契約の見直しやシステム子会社の再建に注力するユーザー企業は、もう珍しくない。システム部門は、人繰りが厳しいなか、システム活用の促進や、セキュリティ/情報漏洩対策といった、これまでのシステム部門の枠を越える仕事にも挑戦している。

 「しかし」である。これらの変革に向けた試みが成功しているシステム部門は、残念ながら多くない。それどころか、変革への思いが空回りしているところが散見される。

 問題の所在はどこにあるのか。それを徹底的に検証しなくては、システム部門の明日はない。まずは、つい先日までシステム部長を務めていたOB3人に、今のシステム部門が抱える課題を“本音”で語ってもらった。


覆面座談会
システム部長OB 激白90分

“御用聞き”で仕事した気になるな

A氏:1年前まで大手製造業のシステム部長を務める。部長在任は約5年。

B氏:大手製造業のシステム部長OB。前職からの通算システム歴は約40年に及ぶ。今春退職。

C氏:外資系企業のシステム部長を約10年間務める。入社して以来、ほぼ一貫してシステム畑を歩む。

――今のシステム部門の課題は、何でしょう。

A氏 これまでの仕事のやり方が通用しなくなっていることだ。システム部門の役割が広がり、昔のように“細かい”ところまで見ようにも手が回らなくなった。

 最近、経営はシステム部門に対し、セキュリティや情報漏洩に関する仕事まで要求してくる。社員のモラル向上も含め、ITだけで解決できないことも多いが、経営に言わせると、「それもシステム部門の仕事」となる。

 ところがシステム部員は、昔ながらのエンジニア気質から抜け出せずにいる。求められる仕事の内容が変化しているのに、変われない。これが、今のシステム部門が抱える最大の問題だと思う。

B氏 私はシステム部門一筋だったけど、まったく同感です。今のシステム部門は自己変革できないでいる。

 自分なりに何が問題なのか、いろいろと考えてみた。その結果、「新しいことや難題にチャレンジする気概を持った人材が少ない」という結論に至った。少なくとも、私の部下にはほとんどいなかった。起こった問題の原因を考え、つぶすことのできる人材はたくさんいたのだが(苦笑)。

知識を広げようとしない

――部下の方々もさまざまなスキルを習得しようと必死だったと思いますが。

A氏 いや、利用部門出身の私に言わせれば、システム部員は頭が固い。自分の守備範囲に拘泥して、知識を広げようとしない傾向がある。

B氏 残念ながら、本当にそう。自分の仕事以外のことは勉強しない。

 世の中には面白くて、ためになるビジネス書がたくさんあるのに、手に取ろうともしなかった。部下には読書を通じて、物事をさまざまな角度から考えるクセをつけてほしかったのだが、そうはならなかった。

C氏 私も業務知識の習得を部下に強く求めていました。でも、難しかった。

 業務知識の基礎を備えていないと、本当に利用部門が求めるシステムを企画提案できるはずがない。それなのにITの専門用語を使って、けむに巻いてしまう。本当は利用部門の担当者の言葉で会話できないといけないのに。

 同じように指導したつもりでも、部下によって差が出る。うまく業務知識を身に付けてくれる人もいれば、技術寄りになってしまう人もいる。教育方法が悪かったのかもしれませんが、やはりセンスが必要と感じました。

発想を切り替えろ

――部下の仕事に対する姿勢で、ほかに気になっていたことはありますか。

B氏 たくさんある(笑)。

 例えば、なるべく狭い範囲で仕事して、責任を逃れようとすること。ハードウエアが故障したら、「それはベンダーが悪い」と反論する。システムの活用が進まないと、「利用部門がきちんと仕様を出さなかったからだ」と言い訳する。

 こうした態度だから、挑戦も勉強もしなくなる。これでは企画力など、身に付くはずがない。たまに斬新なアイデアが出ても、細かな技術上の問題点ばかり挙げてつぶそうとする。もう悪循環だよ。

A氏 利用部門と議論するとき、最初から「プラットフォームは何でいく」とか、「処理効率は出るか」といった話ばかりしたがる。特にリーダー・クラスのベテランに多かったな。

「そんな細かい話は後回しにしろ」、「ベンダーに任せればいいだろう」としかりつけたけれどダメ。過去の経験にしがみついて、発想を切り替えられない部下が少なくなかった。

B氏 経営にすれば、細かい話はどうでもよい。システム部門がそんなふうだから、経営トップから「期待しても仕方がない」と思われてしまう。

C氏 システム部門は、ほかの部門と違って全社のビジネスを俯瞰できます。それなのに、そのポジションをまったく生かしていない。

 システム部門の仕事は、経営のビジョンとか方向性をきちんと理解して、それらと情報化の整合性が取れているか、チェックすることです。なのに、それがほとんどできていなかった。

A氏 企画して提案する力がないから、十年一日のごとくシステムを作る仕事にだけ目を向けている。

 私の部下には、「仕事を作って、やった気になっている」のが、たくさんいたよ。システム部長になりたてのころかな。利用部門を回って、仕事を見つけ出し、6カ月間の作業計画書を作ってくる部下がいた。その手際の良さといったら、“お見事”としか言いようがなかった。

 でも、その計画書に書いてあるのは、どうでもよい仕事ばかり。「利用部門の担当者の趣味で帳票の形式を変更する」みたいな修整案件は、会社にとって価値がない。部長就任後、すぐにそうした類の仕事は全面的に禁止した。

B氏 その話は耳が痛い。入社して10年目ぐらいのころ、利用部門出身の新任システム部長に、怒られたことがある。提出した日報を前に、「お前たちの仕事は御用聞きだ。なにも提案していない」ときつくしかられた(笑)。状況は今でもあまり変わっていないということだね。


図●ユーザー企業のシステム部門が抱える悩み
 3人のシステム部長OBの本音トークからもわかるように、いまのシステム部門を取り巻く状況は厳しい。課題は山積みだ。理想形にはまだ遠い。

強くなれない理由を探る

 システム部門はなぜ強くなれないのか。そして、どうすれば強くなることができるのか――。

 本誌は創刊600号の特集として、この命題を徹底的に考えた。60社近いユーザー企業を取材し、システム部門の現状を検証した。

 その結果、今のシステム部門が抱える体制面、人材面の課題がいくつか浮かび上がってきた([拡大表示])。

 これらの課題には、システム部門の自助努力だけでは解決できないものも多数含まれている。しかし、経営トップや利用部門に責任を転嫁していては、いつまでたってもシステム部門は強くなれない。

 以下では、七つのトピックスを取り上げ、変革のための処方箋を提示する。


続きは日経コンピュータ2004年5月17日号をお読み下さい。この号のご購入はバックナンバーをご利用ください。