従来はなかったシステムが登場してきた。人やモノ、情報が今どこにいる(ある)のか、どのような状態なのかをリアルタイムに把握することで、“仕事のやり方”そのものを変えるシステムだ。
背景には、プレゼンスの把握・活用を実現する基盤の充実がある。プレゼンスとは、人やモノ、情報の状態・状況・属性のこと。IP電話や第3世代携帯、PtoPソフト、アドホック・ネットワークといった技術/製品/サービスの登場・普及が、プレゼンスのリアルタイム把握や、プレゼンスをトリガーにした既存システムとの自動連携を可能にした。
もちろん、プレゼンスの活用はウイルス感染や情報漏えいなどの、負の側面を持つ。ただ、そこでも技術/サービスの革新は進んでいる。企業システムの“次゛のステップと言える「プレゼンス」をどう生かせばよいのか。最前線を追った。

(河井 保博、本間 純)

Part1 “今”の把握が業務スタイルを変える
 即座にコンタクト
 もう顧客は逃がさない
 いつでもどこでも会議
Part2 ウイルス、情報漏えい…、負の側面はこう防ぐ


【無料】サンプル版を差し上げます本記事は日経コンピュータ2004年3月8日号からの抜粋です。そのため図や表が一部割愛されていることをあらかじめご了承ください。本「特集」の全文をお読みいただける【無料】サンプル版を差し上げます。お申込みはこちらでお受けしています。なお本号のご購入はバックナンバーをご利用ください。

 「営業担当者の日報が携帯電話の音声入力で作れたら…。いつでもどこでも作成でき、情報量もテキスト入力に比べて豊富になる。営業の仕事のやり方はがらりと変わるはず」。UFJ銀行の滝沢 卓システム企画部調査役は、「あくまで検討中」としながらも、新しいシステムの可能性を語る。

図1●UFJ銀行は全社導入を進めているIP電話を活用し、業務の効率化や顧客サービスの向上を目指す
 同行は昨年秋、5年後の姿「UFJ Broadband Banking」構想を打ち出した。その検討内容の一例が、4万台という国内最大規模の導入を進めているIP電話を核にした日報の音声入力である(図1[拡大表示])。さらに、電話で話した顧客の声を録音し、顧客管理システムなどと連携させることも検討している。

 顧客から苦情の電話があれば、メールに音声ファイルを添付して担当営業に送る。即座に連絡をつけられるし、音声から顧客の感情を察し、適切な対応をとれる。担当者がパソコンを見られる状態でなければ携帯電話に連絡するなど、状況に応じた連絡方法を選べば、「より迅速で、質の高い顧客サービスが可能になる」(滝沢調査役)。

プレゼンスの把握が無駄をなくす

 現場や顧客の状況をリアルタイムに把握し、それを次の業務フローに即座につなげる――これまでになかったタイプのシステムが構築され始めた。

 従来、社員や顧客、商品などの位置や状況をリアルタイムに知ることは難しかった。必要な情報を収集するのに時間がかかるため、業務効率が落ちたり、ビジネス・チャンスを逃したりする。それが、新しい技術/製品/サービスが登場、または普及し始めたことで状況が変わった。いつでもどこでも必要な情報を入手し、適切な人やモノ、既存システムを連携させる基盤が整ってきたのだ。

 新しいシステムは、“仕事のやり方”を根本から変えてしまう可能性を秘めている(図2[拡大表示])。すでに実際に変えた、あるいは変えようとしているユーザー企業が現れている。

図2●プレゼンスを用いれば“仕事のやり方”が変わる

 例えば、さまざまな機器の保守を請け負うオムロン フィールドエンジニアリング。同社は昨年4月から、エンジニアが今どこにいて、あとどのくらいで現場に到着するか、あるいは保守作業を終えるかを、コールセンターで一元管理している。この情報をSLA(サービスレベル・アグリーメント)の達成につなげている。

 パナソニック コミュニケーションズは、顧客に納めたコピー/プリンタ/ファクスの複合機から自動的に稼働状況の情報を吸い上げる仕組みを開発。トナーなどの消耗品の補充時期をリアルタイムに取得してライバル業者に先んじることを構想中だ。日立製作所は、大型のショッピング・センターで店員の居場所を管理し、顧客の流れに合わせてリアルタイムに店員の配置を変えることを提案している。

 ここで利用している人やモノの状況・状態は「プレゼンス」と呼ばれる。代表例は人の位置情報だ。連絡を取りたい相手がオフィスで在席しているかだけでなく、同じ外出中でも商談中か移動中かまで分かれば、最適な通信手段を選んだり、いつなら話ができるかを判断したりできる。

 必要なときに適切な人に即座にコンタクトできれば、業務の進め方は大きく変わる。個人同士だけではなく、グループの共同作業でもプレゼンスは役立つ。全員のプレゼンスを確認し、最適な方法でネットワークを構築することが可能だ。

 広義には、人の知識、役職・権限、スキル・レベルなどの属性情報もプレゼンスである。モノなら、位置や個数(量)、動作状況などが考えられる。

技術/サービスの充実が後押し

 プレゼンス活用の基盤として最も注目されているのが、IP電話である(図3[拡大表示])。UFJ銀行のように全社的に導入する企業が増えてきたからだ。

図3●さまざまな技術やサービスの充実・普及がプレゼンスの活用を可能にした

 IP電話は、サーバーに端末の状態を通知する仕組みになっているので、端末からプレゼンスを容易に収集できる。さらに、他の機器やシステムとの連携が容易だ。「今主流のIP電話の基盤技術であるSIPは、単純なプロトコルなのでIP電話以外の機器や業務システムにも組み込みやすい」(ソフトフロントの阪口克彦最高技術責任者)。

 業務システムとIP電話を連携させれば、システムが検知したイベントをIP電話かメールのどちらに通知するかを、プレゼンスに応じて自動的に切り替えられる。担当者が対応できないことが分かれば、システムで応急措置を取るといった仕組みも可能になる。

 人の位置情報は、GPS(全地球測位システム)機能を搭載した携帯電話を使えば取得できる。先行するKDDIに続きNTTドコモは昨年、GPS対応の携帯電話を市場に投入した。工場や店舗など特定のエリア内での詳細な位置は、無線LAN技術を使えば把握できる。日立が昨年11月に出した無線LAN製品「日立AirLocation」は、電波の強度から無線LAN端末の位置を測る機能を備えている。

 プレゼンスの収集・管理を手助けするツールや、収集したプレゼンスを活用する仕組みも充実してきた。日立は昨年9月、プレゼンス管理の専用サーバー「PROGNET/PR」を提供。富士通が他社に先駆けて2002年12月に提供を始めたプレゼンス活用ミドルウエア「FLAIRINC」や、沖電気工業が今年3月に出荷開始したIP電話と業務システムの連携用サーバー「IP CONVERGENCE Server IPstage SS9100」など、プレゼンス管理の機能を備えた製品が増えている。

 いまやほとんどのユーザー、顧客が携帯電話を持ち歩いていることも、プレゼンスを活用しやすくする。無線LANのアクセス・サービス、いわゆるホットスポットが提供され、街角でもインターネットに接続できる環境が整ってきた。帰宅すれば、多くのユーザーはブロードバンド環境にある。第3世代携帯電話を使えば、携帯電話一つでテレビ電話が可能になるし、ピア・ツー・ピア(PtoP)ソフトなどを駆使すれば、いつでもどこでも他のユーザーと詳細な情報を共有できる。

 通信インフラがこれだけ多様化すると、場面によって、最適な連絡手段が違ってくる。プレゼンスをこれらの通信技術/サービスと組み合わせれば、業務のスピードは格段に上がる。「企業システム全体がリアルタイムのプレゼンス流通を前提としたものに変わる」(富士通の塚原哲矢モバイルソリューション事業推進室長)。


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