“ぼんやり”とではあるが、その将来像が垣間見える――。2010年はこんなイメージだろう。本特集では「ユーティリティ」、「リアルタイム」、「ナレッジ」の3分野を通じて、2010年の情報システム像を描くことに挑戦した。企業は、そして個人は今後6~7年で何をすべきかを考えるキッカケとしていただきたい。
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2010年の情報システム
6つの予言
2010年の情報システムは、いったいどのような姿になるか。本特集では六つの予言を提示する。
これらの予言は、先進技術を研究する技術者やユーザー企業の担当者など50人以上に取材を重ねた結果を基に、本誌が検討・作成した。2010年になって、本当にこれらの予言が実現されるかは未知数だが、少なくとも方向性は間違っていないと確信する。予言のなかには、「こういう方向に向かうべきだ」との考えから、あえて挑戦的なものも含めている。
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Part1. Utility
サーバーの姿は消え
「サービス」に変貌する
サーバーは集中すべきか、分散配置がいいか迷ってしまう。システムにかかるアクセス負荷が読めず、ダウンしないか心配だ――。2010年には、ユーザー企業がこうしたハードウエアに関する議論で悩まされずにすむようになる。コンピュータの処理能力を好きなときに好きなだけ使い、使った分だけ料金を払う「ユーティリティ・コンピューティング」の時代が到来するからだ。グリッドやオートノミックなどサーバーの“仮想化”技術が大きな役割を果たす。
システム・ダウンが心配で、年末もゆっくり休めない。ここ数年、年明けの営業初日に想定量を超えるアクセスが押し寄せるからだ。しかし、たった1日のピークのために大量のサーバーを買い足すわけにはいかない。来年も、再来年も、同じ悩みを抱えなければいけないのだろうか…」。
インターネットでシステム同士が複雑につながり合う時代、業種を問わず多くの企業のシステム担当者が、このような悩みを抱えている。
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図1-1●2010年、ハードウエア資源をネットワーク経由で利用する「ユーティリティ・コンピューティング」時代が到来する |
2010年には、これが一挙に解決される可能性が高い。さまざまな機種のハードウエアをつなぎ合わせ、あたかも1台の巨大サーバーのように扱えるユーティリティ・コンピューティングの時代が訪れるからだ(図1-1[拡大表示])。
日進月歩のITの世界で、今から6~7年先がどうなっているのかは知りようがない。しかし今回、本誌は第一線のエンジニアや研究者、先進ユーザー企業への取材を基に、2010年のIT社会を占う六つの予言を導いた。Part1では、いま予測できる範囲でユーティリティ・コンピューティングの姿を明らかにしていく。
自前のサーバーが消える日は近い
ユーティリティ・コンピューティングの時代が到来すると、なぜ冒頭のシステム担当者の悩みが解消できるのか。自社専用のハードウエアを持たなくてすむようになるからだ。これが予言1で示した「“わが社”のサーバーがなくなる」社会である。業務アプリケーションはすべて、ベンダーのデータセンターにある仮想サーバーで動く。
米IBMのトーマス・J・ワトソン研究所で先進技術の研究を手がけるスティーブ・ホワイト シニア・マネジャは、「ユーティリティ・コンピューティングを実現すると、処理のピークの心配がなくなる」と予想する。システム資源は、業務アプリケーションの処理量に応じて自動的に割り当てられるからだ(ワトソン研究所の研究動向については、本誌51ページの「IBMワトソン研究所にみるIT研究最前線」を参照)。
そうなると、システム運用の手間が減るだけでなく、システム・ダウンの減少が期待できる。少なくとも、「想定を超える量のアクセスが舞い込んだせいで、システムがダウンした」といったトラブルは起こりにくくなる。予言2の「システム・ダウンが過去の遺物に」がぐっと現実に近くなるわけだ。
アウトソーシングやシステム共同化などにより、すでに「わが社のサーバー」を持たない企業にもメリットはある。アウトソーシング先のベンダーが顧客のシステムにユーティリティ・コンピューティングの仕組みを適用すれば、「ユーザー企業は負荷に応じてシステム規模を変更したり、従量課金制の導入でムダなハード費用をなくしたりできる」(日本IBMサービス事業担当の下野雅承常務)からだ。すでにシステムを外部に出しているので、ユーティリティ・コンピューティングへの移行もしやすい。
もちろん2010年の時点でも、従来どおりシステムごとに自前のサーバーを持ち続けることはできる。ただ、コストや運用のしやすさの点でメリットは小さくなるだろう。
第一歩はすでに踏み出している
ユーティリティ・コンピューティングに向けた動きはすでに見られる。例えば日本IBMは2003年11月、コンピュータ資源を必要に応じて増減できる技術基盤「ユニバーサル・マネジメント・インフラストラクチャー(UMI)」を発表した。2004年末にも、同社が運用アウトソーシングを手がけているシステムで導入する。UMIは複数台のサーバーをつなぎ合わせて一括管理するためのシステム基盤。日本IBMの下野常務は、「顧客企業は処理のピークに合わせた規模のシステムを用意しなくてすむようになる」とUMIのメリットを強調する。
富士通も2003年12月に、コンピュータ資源をユーザー企業の要求に応じて提供する「オンデマンドアウトソーシングサービス」を始めた。NTTコムウェアも同じく12月に、「次世代マネージド・ホスティング・サービス」を開始。こうした動きに先がけ、日本ヒューレット・パッカードは2002年12月から、「hp Utility Data Center」を提供している。
各社のサービスは適用範囲がまだ限定的で、実現方法もそれぞれ異なる。それでも、ユーザーから見て「コンピュータ資源を必要なだけ使える新サービス」である点は共通している。
サーバー仮想化は、革新でなく進化
ユーティリティ・コンピューティングへと向かうこうした流れは「極めて自然」と、IT調査会社 米ガートナーのカール・クランチ リサーチ・バイス・プレジデントはみる。「ユーティリティ・コンピューティングはコンピュータ資源の“仮想化”にほかならない(米ガートナーのITに関する動向予測については、本誌72ページの『米国報告/ガートナー・シンポジウム』を参照)。コンピュータの進化は、仮想化の歴史でもある」(同)からだ。
続きは日経コンピュータ2003年12月29日号をお読み下さい。この号のご購入はバックナンバーをご利用ください。