システム開発プロジェクトの成功率はわずか26.7%。本誌が大手から中堅・中小に至る1万2546社を対象に実施した調査で、衝撃的な事実が判明した。システム開発で守るべき3条件、すなわち「QCD(品質・コスト・納期)」をクリアできなかったプロジェクトが、全体のほぼ4分の3に達した。併せて情報化投資の動向を探ったところ、業種・規模を問わず情報化投資を抑制していることが確認された。

(中村 建助、矢口 竜太郎)

プロジェクト編 最難関はシステムの品質
投資動向編 情報化投資は冬の時代


【無料】サンプル版を差し上げます本記事は日経コンピュータ2003年11月17日号からの抜粋です。そのため図や表が一部割愛されていることをあらかじめご了承ください。本「特集」の全文をお読みいただける【無料】サンプル版を差し上げます。お申込みはこちらでお受けしています。なお本号のご購入はバックナンバーをご利用ください。

情報化実態調査の方法

全国の証券取引所(新興市場を含む)に上場している企業と、年間売上高100億円以上(流通業は200億円以上)の未上場企業の合計1万2546社にアンケート用紙を送付し、プロジェクト運営体制や情報化投資額などを質問した。調査期間は2003年9月1日~12日。有効回答の総数は1746件(回答率13.9%)。

 システム開発プロジェクトの成功率は何%くらいなのか。システムの開発に携わる人間なら、だれでも一度は感じる疑問である。

 だが、この問いに正面から答えるのは難しい。毎年、膨大な数のプロジェクトが実施されているが、その実態が表面化することはほとんどないからだ。

 「成功」、「失敗」の定義も難しい。「完成したシステムを廃棄して作り直した」とか「カットオーバーが2年以上遅れた」といった極端なケースを別とすれば、成否の判断は当事者の主観に大きく左右される。

 しかし、これではシステム開発プロジェクトの実態はいつまでたっても闇のなかだ。平均的なプロジェクト像が明らかでないと、自社の優劣が評価できず、適切な対策も打ち出せない。

 そこで本誌は今回、難題であることを承知の上で、プロジェクトの成功率を調査することにした。まず大手から中堅・中小に至る1万2546社の情報システム部門を対象にアンケート調査を実施した(調査の概略は囲みを参照)。 

 プロジェクトの「成功」を判断するために、独自の基準を策定した。「QCD(Quality,Cost,Delivery)」、すなわちシステムの品質、コスト、納期のそれぞれについて当初の計画を順守できたかどうかを尋ね、その回答を基にプロジェクトの成否を判定することとした。具体的には、品質、コスト、納期の3点すべてで、当初計画通りの成果を収めたプロジェクトだけを「成功」とみなした。

 この方法で1200件近い有効回答を分析したところ、「プロジェクトの成功率は26.7%」という結果が出た。つまり、プロジェクトの4件に3件は「失敗」していることになる。

 26.7%という成功率は、編集部の事前の予想を下回るものだった。プロジェクトマネジメントがちょっとしたブームになるなど、「プロジェクトの失敗を防ぐための試みはかなり定着してきた」と考えていたからだ。

 しかし、「これでもまだ成功率が少し高めに出ているのではないか」。千葉工業大学社会システム学部プロジェクトマネジメント学科の関 哲朗助教授はさらに厳しい。「日本人の傾向として、『成功』とは言いづらいプロジェクトも『失敗』とはなかなか認めようとしない面がある」と続ける。

 調査ではシステム開発プロジェクトの成否だけでなく、プロジェクトマネジメント手法の導入状況についても聞いている。定量的にプロジェクトを管理している企業はまだ少数派であることが明らかになった。

 プロジェクトの実態と併せて、情報化投資の動向も調査した。その結果、厳しい経済状況を反映して、企業の情報化投資額が頭打ちになっていることが分かった。回答企業の来年度の情報化投資は、平均で12.7%も減少する。情報化投資の目的としても「業務の効率化によるコスト削減」を挙げる企業が圧倒的に多かった。

 「プロジェクト編」では、日本企業におけるプロジェクトの実態を明らかにする。続けて「投資動向編」では、情報化投資の動向を分析する。

【プロジェクト編】 最難関はシステムの品質

成功率向上には
コストの定量管理が効果的

 26.7% ―本誌が1万2546社を対象に実施した調査から弾き出したプロジェクトの成功率である。プロジェクトの3大評価指標である、品質・コスト・納期(QCD)のすべてで当初の目標を達成したものだけを「成功」とみなし算出した。

図1●品質、コスト、納期で見たプロジェクトの成功率。最も高いのは品質の壁、2番目は納期である。当初に計画したコスト、納期の範囲内でプロジェクトが終了し、満足している場合を「成功」と定義した

 それでは残り73.3%の“失敗”プロジェクトは、QCDのどこでつまずいたのだろうか(図1[拡大表示])。

システムの品質が最難関

 QCDの3条件のなかで最もハードルが高かったのは、完成したシステムの「品質」である。「2002年度または2003年度に稼働した(稼働予定を含む)システムの開発プロジェクトのなかで、最も規模が大きいもの」について、完成したシステムの利用状況を質問したところ、こうした結果が出た。

 この設問の有効回答1198件のうち、「計画通りのシステムが完成」しており、しかも「満足している」との回答は、46.4%(556件)しかなかった。有効回答の24.3%に当たる291件は「計画通りのシステムを利用しているが不満足」と答えている。

 「計画通りのシステムを利用しているが不満足」との回答があったプロジェクトは、システムの品質面で「成功」とはみなせない。


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