2007年前後、日本の情報化をリードしてきたベテラン・エンジニアが相次いで引退する。基幹系のブラックボックス化など、さまざまな問題の発生が懸念されている。ところが「次」を担う若手が伸びていない。OJT任せでエンジニアとしての体系的な教育を受けてこなかったためだ。ITエンジニアの教育・育成を巡る問題点と改革に向けた動きを探った。
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本記事は日経コンピュータ2003年10月6日号からの抜粋です。そのため図や表が一部割愛されていることをあらかじめご了承ください。本「特集」の全文をお読みいただける【無料】サンプル版を差し上げます。お申込みはこちらでお受けしています。なお本号のご購入はバックナンバーをご利用ください。
プロローグ:
中堅エンジニアA氏の独白
入社はバブルの真っ最中だった。文学部出身でコンピュータの「コ」の字も知らないまま、3カ月の研修が終わるとすぐに現場に出された。幸い上司や先輩に恵まれ、何とかここまでやってきた。担当業界の業務はそれなりに理解しているつもりだ。3年前には「リーダー」の肩書きも付いた。
でも最近、将来が不安だ。このままITエンジニアとしてやっていけるのだろうか。
考えてみると、ITベンダーに就職してからの15年間、コンピュータやシステム構築の基礎を一度もきちんと学んでいない。ここ10年は外注管理ばかりで、プログラムは1行も書いていない。
そのせいか新しい技術が出てきても、今ひとつピンとこない。この間もWebサービスを使った案件で、リスクを読み損ねてお客さんに大目玉を食らった。これまで何かと頼りにしてきたBさんがついに定年で、相談できなかったのが痛かった。そういえば、「部品表の神様」の異名をとるCさんや「チューニングの鬼」のDさんも、あと3~4年で引退だ。大丈夫かな、ウチの会社…。
仕事はますます忙しくなっている。実績評価もシビアになった。これでは部下の面倒もなかなかみられない。会社は「オブジェクト指向で設計して、生産性を上げろ」と言うけど、正直チンプンカンプンだ。
ここ数年は給料も上がらない。プロジェクト・マネジャになれば昇給するのだが、勉強の時間がとれない。それでも、リストラされた同期のEよりはマシと思ってがんばっている。この世の春を謳歌してきたIT業界だが、「最近は人が余りだした」と新聞にも書いてあった。
そういえば、この間、一緒に仕事した中国人エンジニアのF君は優秀だった。まだ30歳前なのに、業務分析からテストの手法まで一通り身に付けていた。オブジェクト指向技術も完全に使いこなしていた。自分がF君ぐらいのときには先輩のマネをするので精一杯だった。中国の大学でソフトウエア工学を学んできただけのことはある。日本語が流暢だったせいか、お客さんが直接F君に要件を伝えたがって困ったけど。
プロジェクトの打ち上げで聞いたら、F君の給料は同じぐらい年齢の日本人の7割ほどだった。それでも中国ではかなりの高給取りだ。F君の同級生には、日中の政府が一昨年から始めたIT技術者試験の相互認証制度を使って、日本の在留資格を申請中の人がたくさんいるという。
このままだと、自分のような平均的な日本人エンジニアはお払い箱になりかねない。
◇ ◇ ◇
A氏はあくまでも架空の人物。だが、その悩みは決して他人事ではない。
もちろんA氏個人が悪いのではない。彼はベンダーがOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)任せで、ITエンジニア育成を怠ってきたツケを払わされているだけだ。
日本のITエンジニア育成がいかに危機的な状況にあるのか。次ページから数字で説明しよう。
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