社内で稼働するシステムの数が増大し、かつ、それらなしでは業務が滞りかねない状況にある今、サーバーには従来以上に「ダウンしない」、「急変する処理要求に即応できる」機能が求められている。メインフレームが磨き上げてきた技術は、まさにこれらの要求に応えるものだ。その技術の一部は、大規模化を指向するUNIX/パソコン・サーバーが取り入れつつある。しかし現在でも、メインフレームが頭一つ抜きんでていることは間違いない。米IBMが5月に発表した新メインフレーム「zSeries 990(開発コード名T-Rex)」は“何が”“どうすごいのか”を明らかにすることで、大規模サーバーの未来を探った。

(千田 淳、矢口 竜太郎)

Part1 メインフレームが先導する信頼性、可用性技術
Part2 z990に見る大規模サーバーの将来像


【無料】サンプル版を差し上げます本記事は日経コンピュータ2003年9月22日号からの抜粋です。そのため図や表が一部割愛されていることをあらかじめご了承ください。本「特集」の全文をお読みいただける【無料】サンプル版を差し上げます。お申込みはこちらでお受けしています。なお本号のご購入はバックナンバーをご利用ください。

 メインフレーム、UNIX/パソコン・サーバーを問わず、企業情報システムを支えるサーバーの主要メーカーは昨年秋から、そろって「自律(オートノミック)」の実現を目指すと語り始めた。最近の市場ニーズは、ユーザーの要求に対してタイムリに、機能・能力を提供できる「オンデマンド」なIT基盤を実現すること。そのためには、システムに「自律」が求められるからである。

 オートノミックなシステムとは、「いつでもサービスを提供できるように停止しない」、「万が一障害が発生しても停止範囲をごく一部に抑え込める」、そして「同時に多数寄せられる要求に応じて、自動的に資源を最適配分する」システムだ。それを実現するためには、「システム停止を徹底的に回避する」信頼性技術と、「1台のサーバーを仮想的な複数のサーバーに分割して、障害の影響範囲を最小限に食い止める」可用性技術。そして広義の可用性技術として、「CPU/主記憶/入出力の資源を、無駄なく活用できるように最適配分する」ことが求められる。

メインフレームに一日の長

 これらの技術においてメインフレームに一日の長があることは、UNIX/パソコン・サーバー陣営も認めている。汎用的なハードウエア/ソフトウエアの使用が大前提となるUNIX/パソコン・サーバーに比べ、メインフレームには独自のプロセサと独自OS、独自の入出力機構を駆使できるという強みがあるからだ。

図1●メインフレームとUNIXサーバー、パソコン・サーバーの「位置取り」と、重点的な強化の方向性

 サン・マイクロシステムズの山本恭典プロダクト・マーケティング本部長は、「(信頼性や可用性について)メインフレームを100点とすれば、95点までは追いついたと思う。だが、すべての処理や転送パスの裏で監視機能が走り、障害原因を完全に特定できるメインフレームの機能には追いついていない」と語る。日本ヒューレット・パッカード サーバプロダクト本部 OEマーケティング部の栄谷政己部長も「複数の仮想サーバーの間で、自動的にCPU資源を再配分することは(HP製品でも)可能になった。だが主記憶や入出力資源を仮想サーバーの間で自動的に再配分することは、まだできていない」と差を認める。

 例えばメインフレームが信頼性向上のために採ってきたメモリーのエラー対策や構成要素の冗長化などは、UNIX/パソコン・サーバーも採用して信頼性を大きく向上させた。だがCPUの内部で命令の実行結果を逐一検査する機能や、入出力部での障害によるダウンを回避する仕組みは、メインフレームの独壇場だ。障害の回避策をOSなどのソフトではなく、ハードの機能として組み込んでいることも、メインフレームの特徴である。

 1台のサーバーの資源を切り分けて多数の仮想的なサーバーを作り出す機能については、メインフレームのほうがUNIX/パソコン・サーバーよりきめの細かい分割が可能だ。さらに処理要求に対して資源を最適に配分する機能も、メインフレームはUNIXサーバーより高度な自動調整機能を有する。

写真●IBMが今年5月に発表、6月から出荷を開始した新型メインフレームzSeries 990
 UNIX/パソコン・サーバーはコスト面での要求が厳しいし、汎用・標準のハード/ソフトを使うという制約がある。メインフレームと同じ技術を流用することは難しい点が多い。だがハイエンドのUNIX/パソコン・サーバーは、技術は違っても、メインフレームと同等の信頼性、可用性の機能レベルを目標とし、実現しようとしている。メインフレームを見ることは、未来のUNIX/パソコン・サーバーを見ることにつながる。

メインフレームが歩み寄る

 一方メインフレームは、UNIX/パソコン・サーバーの世界でCやJava言語で作られた膨大なソフト資産を、サーバー統合の流れのなかで吸い上げようと狙っている。

 入出力性能の向上よりも、CPUの高速化に注力してきたUNIX/パソコン・サーバーの世界の考え方に沿って開発されたソフトは、過去のメインフレームとは相いれない面があった。最新のメインフレームはこの点で、UNIX/パソコン・サーバーの世界の考え方に急速に近づこうとしている(図1[拡大表示])。

 「メインフレームとUNIX/パソコン・サーバーは、何がどう違うのか」。

 本特集では米IBMが5月に発表した新メインフレームz990(写真1)を、主に技術面から掘り下げ、米ヒューレット・パッカード(HP)、米サン・マイクロシステムズの最上位UNIXサーバー、IBM自身のUNIX/パソコン・サーバーと徹底比較した。


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