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 「残業手当はいきなり半額。ボーナスは前年の3分に1に激減した。なのに仕事の量は増える一方。これでは,やる気をなくしてしまう」(ソフト会社,SE,27歳)。「給与体系の変更により,1998年度から年収が減りつづけている。昇給はもう6年もない」(ユーザー系SI,プロジェクトマネジャ,45歳)。「長時間残業し,それに妻の収入を加えてやっと生活ができる程度。ところが残業を月100時間以上しても約20時間分の手当てしか出ない。無理をして体調を崩してしまい,通院費で消えていくことも多い」(製造,SE,29歳)―。

 日経コンピュータがITプロフェッショナル(ITプロ)向け総合情報サイト「IT Pro」と協力して7月22日から8月7日まで実施した「給与・処遇実態調査」から,ITプロは昨年の前回調査よりも一段と厳しい状況に置かれていることが浮き彫りになった。ここでいうITプロは,SEやプログラマ,プロジェクトマネジャ,システム運用担当者,コンサルタントなどを指す。

 中でも顕著なのは,「給料が上がらない」という現実である。今年度(2002年度)の年収が昨年度(2001年度)よりも「減る」と回答したのは全体のほぼ3割に達した。ITプロの3人に1人は,今年度の給料が上がるどころか下がると考えているのである。昨年度の給与実績がその前年度(2000年度)よりも「減った」と回答したのは全体の2割。給与が「前年度比マイナス」になると予想するITプロの割合が,たった1年でほぼ10ポイント増加したことになる。
v  今年度に年収が減る要因として大きいのは,会社の業績悪化に伴う賞与や残業代,各種手当のカット,ベースアップの見送りなどである。では業績が回復すれば年収も上がるようになるのか。ことはそう単純ではない。

 現在,日本のIT業界はこぞって,個人の実績や会社/部門の業績に給与を連動させる「成果主義」の導入を進めている。今後はその傾向がより強まるだろう。景気動向に関係なく,「給料が増える人」と「減る人」の二極化が一層進む可能性は極めて高い。

 ところが,多くの企業は従来の「年功序列」型の給与制度をいまだに引きずっている。評価の体制も確立されていない場合が多い。今回の調査でも,多くのITプロから成果主義に対する不満の声が上がった。欠陥を抱えたままの成果主義を,会社は早急に是正する必要がある。

 このような過渡期を生き抜くために,ITプロは何をすればよいのか。逆境に耐え得る“真の”プロフェッショナルを目指すべきだ。黙っていても年収が「上がっていく」時代はもう終わりつつある。ITプロは,自らのスキルと働きで給料を「上げていく」時期が来ている。あなたは5年後あるいは10年後に,生き生きと仕事をこなしている自分の姿を思い浮かべることができるだろうか。

(鈴木 淳史)


本記事は日経コンピュータ2002年9月9日号からの抜粋です。そのため図や表が一部割愛されていることをあらかじめご了承ください。なお本号のご購入はバックナンバー,または日経コンピュータの定期ご購読をご利用ください。


第1部 「年収増は見込めない」が7割強

 年収が伸びなくなり,ITプロフェッショナルの懐を直撃―。今回の調査で最も顕著だったのが,この動きである。特に35歳以上の中堅・ベテラン層が大きく年収を下げた。アナリストは「ITプロの賃金水準は低すぎる。年収があと200万円以上高くてもよい」と指摘する。

 まず図1[拡大表示]をご覧いただきたい。左が「昨年度(2001年度)の年収がその前年度(2000年度)よりも増えたかどうか」,右が「今年度(2002年度)の年収が昨年度よりも増える見込みかどうか」を尋ねた結果である(調査方法と回答者のプロフィールは別掲記事を参照)。

図1●2001年度における年収の増減(2000年度と比較)と2002年度における年収の増減見込み(2001年度と比較)

 今年度は昨年度よりも「増加」が縮小し,代わりに「減少」が大幅に伸びていることが分かる。今年度に年収増が見込めないと考えているITプロは,全体の7割にも上る。

景気低迷が給与を直撃

 どうして今年度は年収の伸びが期待できないのか。その最大の要因は,会社の業績不振だ。IT業界に限らず,未曾有の景気停滞が日本中を覆っている。いまだ回復には程遠い。

 日立製作所,富士通,NECの国産コンピュータ・メーカーは,2001年度に3社合わせて1兆1800億円近い純損失(連結)を計上した。その結果,2002年度に日立は賃金を一律カット。富士通やNECは定期昇給の延期や諸手当の減額などを断行している。三菱電機や沖電気工業も時短などによる賃金カットを実施。さらに富士通や日立など大手メーカーによる「ソフト開発の外注費カット」は,いわゆる下請け型のソフト会社の経営を圧迫している。

 図1で,昨年度(2001年度)に実際に得た年収が前年度(2000年度)に比べて「減った」のは19.6%である。これに対し,今年度に「減る」見込みは14.1ポイントも増えて33.7%に達した。

 今年度に年収が「増える」見込みは33.2%で,「減る」とほぼ同数。ところが昨年度の「増えた」と比べると,18.2ポイント減っている。今年度が「ほぼ横ばい」は4.1ポイント増で,昨年度とほぼ同じである。

 ちなみに前回(2001年)調査で,同様に「2000年度年収実績」と「2001年度年収見込み」を比較したところ,「増加」が7.2ポイント減,「減少」が0.7ポイント増,「ほぼ横ばい」が6.5ポイント増だった。つまり,今年度は「年収増が見込めない」ITプロが,昨年度よりもはるかに増えたことになる。

 今回の調査でも,会社の業績悪化によって給与が下がってしまったという,ITプロの悲痛な叫びとも言えそうな意見が多くみられた。

●IT不況により,今年度の年収は個人の評価に関係なく10~20%ダウンする。いくら成果を上げても,年収は会社の経営状態にリンクするのが実態である。(メーカー系SI,プロジェクトマネジャ,45歳)

●業績の悪化により平均20%,最大30%の給与カットがなされた。幸いにも私は5%未満のカットですんだが,経営にはまず成すべきことがあったのではないか。この先の生活設計が大変難しい。(流通,SE,36歳)

●労働時間が月180時間に満たない場合は残業代が出なくなった。2003年は月190時間,2004年は月200時間になることが確定。社員のモチベーションがみるみるうちに下がってきたのが分かる。(独立系SI,プログラマ,30歳)

表1●職種別に見た,年齢層別の平均収入(税引き前の金額,単位は万円,カッコ内は回答数)表2●業種別に見た,年齢層別の平均収入(税引き前の金額,単位は万円,カッコ内は回答数)

給与水準が労働の質に見合っていない

 ITプロの年収はいったいどのくらいなのか,具体的に見ていこう。表1[拡大表示]と表2[拡大表示]が昨年度における年収の実績を示したものだ。表1は職種と年齢層別,表2は業種と年齢層別に見た平均年収(税引き前の金額)である。昨年の調査時と比べ10万円以上増加した部分は赤色で,10万円以上減少した部分は青色で強調している。

 今回の調査におけるITプロ全体の平均年収は644万円。前回調査時の639万円からわずかに上がった。ただ,回答者の平均年齢が35.9歳で前回の35.2歳より少し高くなっていることを踏まえると,ほぼ横ばいとみなせる。

調査方法と回答者のプロフィール

 「ITプロフェッショナルの給与・処遇」に関するアンケートは,コンピュータ・メーカーやシステム・インテグレータ,ソフトハウス,ユーザー企業の情報システム部門などに勤務するSEやプログラマ,プロジェクトマネジャ,コンサルタントといった「ITプロフェッショナル」を対象に実施した。給与,人事・処遇,個人のモチベーションやコア・コンピタンス(自分の強み)に関して質問した。
図A●調査回答から浮かび上がったITプロフェッショナルの“平均像”

 調査期間は今年7月22日~8月7日まで。日経BP社が運営するITプロ向けのポータル・サイト「IT Pro」(http://itpro.nikkeibp.co.jp/)の協力を得て,インターネットを使って実施した。回答者の総数は2577人。回答から浮かび上がった,ITプロの平均像を図A[拡大表示]に示す。

 職種別では「SE」が38.6%,「運用・保守」が12.5%,「戦略立案・企画」が12.0%,「プロジェクトマネジャ」が10.7%,「プログラマ」が7.5%,「コンサルタント」が6.2%を占めた。業種では,「独立系SI」が17.8%,次いで「製造業(コンピュータ・メーカーを除く)」が16.6 %,「ソフト会社」が14.2%だった。

 年齢層で見ると,「35歳以上40歳未満」が25.5%,「30歳以上35歳未満」が23.6%。30代からの回答が多かった。次いで「25歳以上30歳未満」が18.7%,「40歳以上45歳未満」が17.9%。回答者の平均年齢は35.9歳。最終学歴は「大学」が最も多く57.8%。「高校」が14.2%,「専門学校」が10.6%と続く。


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