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IBMフェローのケーヘン氏 「SOA(サービス指向アーキテクチャ)は『どのように実装すべきか』、『サービスのインタフェース言語であるWSDLをどう書けばいいか』といった、技術の側面から論じられることが多い。だが、SOAの採用を検討しているのであれば、まずビジネスの側面を考えるべきだ」。米IBMフェローで、エンタープライズ・インテグレーション・チーフアーキテクトと最高技術責任者を務めるエド・ケーヘン氏(写真)は、こう強調する。

 ケーヘン氏は、「『競合他社に負けないようにするには、自社のビジネスを5年後、あるいは10年後、15年後にどう自動化/最適化していくか』を検討し、その上で『それを実現するために、ITをどう生かせるか』という観点で、システム全体のアーキテクチャを考えていかなければならない」と続ける。「まずビジネスの方向性を考えれば、技術は後から付いてくる」。

 全世界で約32万人の社員を抱えるIBMで、技術職の最高位に当たる「フェロー」は現在55人。3カ月前にフェローの一員になったケーヘン氏は、IBMに所属して22年のベテランである。そのキャリアのほとんどは現場の技術者としての活動で占めており、製造業や保険、クレジットカードなどのシステムを手がけてきた。

 SOAに関しては、「あくまでもビジネスの目標を達成するための手段にすぎない」としながら、「すでにSOAを採用して効果を上げている企業が出ている」とケーヘン氏は話す。主な効果は二つ。まず、ビジネスの柔軟性(フレキシビリティ)を向上できること。「ビジネス・スピードに十分キャッチアップできるシステムを構築できるようになる」。もう一つは、ビジネスに合わせてシステムを漸進的に(インクリメンタルに)追加/変更できることだ。「システムを一挙に変えるのではなく、最も重要なところから少しずつ変えていくことが可能だ」。

 一方で、解決すべき課題も多いとケーヘン氏はみる。一つは、実装(プログラミング・モデル)が複雑なこと。「『EJB(Enterprise JavaBeans)でどんなソフトウエア部品を作るか』といったことを、ユーザーは考える必要がないようにするのが理想。だが現状では、そうなっていない。これは我々のようなベンダーの責任だ」。また、「SOAの構成要素である『サービス』の大きさ(粒度)をどう決めればいいかについても、まだ適切なやり方がない」点を指摘する。

 IBMは、自社およびパートナ企業がSOAに基づくシステムを効率よく実現するための方法論やツールの整備を急いでいる。その一つが、ビジネスをサービスの形に落とし込んでいく方法論「CBM(コンポーネント・ビジネス・モデリング)」だ。

 CBMではまず、自社のビジネスを「ビジネス・コンポーネント」と呼ぶ単位に分けていき、それぞれのコンポーネントの価値(KPI)を決めていく。例えば、「配送」という業務が一つのビジネス・コンポーネントになる。

 次に、ビジネス・コンポーネントにおける作業(ビジネス・サービス)を、サービス記述言語のBPELを使って定義していく。その際に、KPIに応じてサービスを自社で手がけるか、他社に任せるかも決める。「SOAの狙いはビジネスの最適化。自社にとってコアになる部分に集中的に資金や人員を投じ、それ以外はできるだけ他社に任せるというのが基本的な考え方」とケーヘン氏は説明する。

 その上でビジネス・サービスの中で、ITサービスとして実現するものを選び、WSDLなどを記述していく。サービスの品質やセキュリティといった「サービス・モデル」も定義する。これら一連の作業は、ツールでビジュアルに進めることができる。このツールは業種ごとによく使われるビジネス・コンポーネントを用意しており、それらをひな型として利用できる。当面は自社およびパートナ向けだが、「より機能やノウハウが充実したら、外販する製品の一機能としても提供する可能性がある」とケーヘン氏は話す。

田中 淳=日経コンピュータ