日本IBMは7月28日、新型メインフレーム「System z9 109」を発表した。これまでeServer zSeriesと呼んでいたものを今回から、「eServer」の呼称を止め、System z9とした。eServerを冠しているp5やi5、xSeriesも、今後の新製品の投入からは「System…」に統一し、2006年前半には全シリーズから「eServer」を外す。オンデマンド戦略の一環で、サーバーやストレージなど組み合わせたプラットフォームとしての提案を強化するためとされる。

 System z9 109は、米国では7月26日に発表された機種。米国での発表同様に、日本でも1~38プロセサ(PU)構成のS08~S38の4モデルを9月に、最大54PU構成のモデルS54を11月にそれぞれ出荷する。

 価格は「顧客ごとの支援サービスやコンサルティングなどと合わせて提供するため、個別対応だ」(出澤研太システム製品担当執行役員)として、今回も開示しなかった。価格性能比については、2003年6月から順次出荷している現行の「z990」と比べると、「Linux環境の実行専用の環境IFLでは、プロセサ当たり35%の性能アップで価格は据え置き。従来のメインフレーム向けアプリケーションの実行環境としてはほぼ同じ」(渡辺朱美zSeries事業部長)という。

 「3年の開発期間と12億ドルの開発費、5000人の技術者を投入して開発した」(渡辺事業部長)というz9 109の注目点は、ブックの稼働中交換機能など、可用性の大幅向上につながるマイクロコード・レベルの強化や、最大性能を約2倍に高めた点にある。7月11日に富士通が発表した同社メインフレームGS21の強化と比べると、IBMの意気込みは桁違いだ。GS21では、最上位のモデル600は強化されず、従来1または2プロセサ構成だった中位モデル400に、3および4プロセサのモデルを追加しただけ。しかも、プロセサ数を倍増したにもかかわらず、性能は50%向上にとどまった。

 ただし、「開発費用は10億ドル」と発表されたz990が、先代のz900と比べMCM(セラミック製モジュール)自体の全面刷新など、大幅にハード設計を変更したのに比べれば、z9 109のハード的強化はやや小規模なものにとどまった。売り物の最大54PU/システム構成も、OSの機能がまだ追いつかず、同時発表のz/OSバージョン1.7でもシングル・イメージでは最大32プロセサまでしか対応しない。全54PUを稼働させるには論理分割機能を使う必要がある。

 System z9とz990の主な強化点と共通点は、以下の通り。

【主な強化点】
(1)プロセサの製造技術を、130nmルールのCMOS-9S(z990)から90nmルールのCMOS-10Sに変更。動作周波数を1.2GHz(z990)から約35%アップ(推定1.62GHz)にした
(2)最上位のS54ではMCM上の全プロセサ・チップを2PU動作させ、MCM当たり最大16PUとした
(3)z9 109では予備用の2PUをシステム全体で共有することで、最大54PU/システム(同1万7600MIPS)となった。z990ではMCMごとに、2PUを予備、2PUを入出力など制御専用に割り当てるため、実質はブックあたり最大8PUとなり、最大32PU/システム(推定9000MIPS)だった
(4)ブックあたりの最大主記憶容量を倍増した(64GB→128GB)。
(5)稼働中にブックの交換や増設、除去を可能にした。故障したブックの交換作業が、アプリケーションの稼働中にできる
(6)ブックから入出力部への接続インタフェース(STI)の速度を、2GB/秒から2.7GB/秒に上げた

【主な共通点】
(1)プロセサは1チップに2PUを搭載するデュアルコア型。これを約95ミリ角のMCMに8個搭載する。S08~S38の4モデルについては、うち4個は1PUしか動作させず、MCM当たり最大12PUとする
(2)MCM上にはその他のキャッシュ・チップなどを含めて、4×4の格子状に16チップを搭載する。各機能チップの配置もほぼ同じ
(3)1モジュールのMCMと主記憶をセットにした、アタッシュ・ケース状の増設単位(ブック)を、1システムに最大4個まで収容する

千田 淳=日経コンピュータ