「リーダーシップやマネジメントといった人間系のスキルや、EA(エンタープライズ・アーキテクチャ)の講義や実習が印象的だった」。ウガンダから来日したジュリアス・ピーター・トラヂ氏は、国際協力事業を手がける独立行政法人である国際協力機構(JICA:ジャイカ)のIT研修プログラムを利用した感想を、こう語る。

 トラヂ氏はウガンダの外務省で、IT化の推進に携わっている。外務省のIT構築ポリシーの策定が当面の大きな仕事だという。ケニアとタンザニア、そしてウガンダの3国は共同で電子政府の基盤作りを始めており、トラヂ氏はこのプロジェクトにも参画しているという。「勉強したことは今後のプロジェクトの推進にすぐ応用できそうだ」と高く評価する。

 スリランカから来日したナーラク・サマンサ・ランカセナ・ベントタゲ氏も、「プログラミング言語やOSなど技術の研修講座は自国でも受けられるが、BPR(ビジネス・プロセス・リエンジニアリング)やプロジェクトマネジメントの講座はない。JICAの研修ではこれらのことを実習を通して学べた。これは大きな成果だった」と、IT研修プログラムに対する感想を話す。ベントタゲ氏は、奨学金を扱う公的機関のシステム部門で、システムの分析や設計を担当している。

日本のITノウハウを途上国に提供

 トラヂ氏とベントタゲ氏の感想は、研修がほぼ一通り終了した7月に語ったもの。JICAは今年4月から、沖縄国際センターでこの新しいIT研修プログラムを提供している(下の写真)。JICAは沖縄センターを含め全国で19カ所拠点を持っており、中でも沖縄センターはIT教育に特に力を入れている。

 研修プログラムの最大の特徴は、発展途上国の主要機関でIT政策を担う人材に向けて、EAをはじめとした情報システムの企画や立案、推進に関する知識を教えること。「情報化戦略責任者(CIO)」や「プロジェクト・マネジャ」といった8種類12コースからなるコースを、来日した各国の研修員が受講する。研修期間は3カ月から4カ月程度。

 CIOやプロマネなど、より上流工程にかかわる人材を対象にしたコースを用意したのは、今年度が初めて。昨年度までは、主にシステムの設計や開発に携わる人材を対象にしたカリキュラムが中心だった。沖縄国際センター業務第二チーム長の山下恭徳氏は、「発展途上国にもITの波は押し寄せており、言語やOSなどの勉強は自国で受けられる。そこでJICAは国際協力の視点から、発展途上国にはまだ勉強のリソースが少ない、CIOやプロマネ向けの研修プログラムを用意した」と狙いを語る。

 研修プログラムの策定に当たっては、経済産業省が策定したスキル体系「ITスキル標準(ITSS)」を参考にした。約80科目の研修プログラムをITSSが定義するスキル内容やスキルの基準に沿って作成した。研修プログラムの策定や講師の派遣については、NTT東日本やNTTソフトウェアなどNTTグループ各企業が協力している。研修はすべて英語で実施する。研修の実施費用や研修員の渡航費用などはすべて、外務省のODA(政府開発援助)予算で賄われる。

 研修は講義と実習で構成する。実習では、実務で使われている教材をひな形に使用する。例えばCIOコースでは今回、茨城県つくば市の協力を得た。同市で使っている電子入札システムを題材に、電子政府のシステムの企画・立案プロセスを“体感”できるようにした。「よい研修プログラムにするには、実務に即した教材が必須。IT教育の面で国際貢献することは、つくば市としても重要なミッションと考えた」と、つくば市の石塚敏之総務部情報システム課課長は協力した意図を語る。

 つくば市はシステム化する前とシステム化した後の業務プロセスを表したドキュメントを、研修用の資料として提供。研修員は、システム化する前の状態の資料を見ながら業務の問題点を分析し、システムの企画や設計を実施した。

 JICAの山下チーム長は、「今後も継続的に研修プログラムに見直しをかけて、IT教育の面からの国際貢献を継続したい」と語る。

高下 義弘=日経コンピュータ

JICAによる研修風景