米ヒューレット・パッカード(HP)のマーク・ハード社長兼CEO(最高経営責任者)は6月23日、都内で記者会見し、「既存事業の構造は変えず、効率を上げることで収益を高める。そのために、財務的・組織的にシンプルな会社にする」と述べた。今年1月に統合したパソコンとプリンターの事業を6月に再び分離したことについては、「技術革新のスピード、研究開発の内容が異なるのが理由」と説明し、「両事業とも売却しない」と強調した。

--合併を重ねて売上高では米IBMに肩を並べたが、企業向け情報システムの分野では、IBMの対抗軸になりえていないのではないか。
 アナリストの見方では、HPの売上高は870億ドル前後になる見通しだ。デルの売上高ははるかに上回っている。IBMの売り上げからレノボに売却したパソコン事業が除かれるので、第2四半期の売上高はHPが世界ナンバーワンになるだろう。
 収益が上下することに対する批判があるのは承知している。もっと効率を上げて、安定した利益を生むことが大事だ。
 コンピュータ・ベンダーを比較することには興味がない。IBMやデルには100社以上のライバルがいる。当社も同じだ。世界は変化している。今後5~7年でどんな革新が起きるかを考える方が大切だ。HPはメインフレームのメーカーではない。

--HPはどう変わるのか。
 スケールを拡大し、効率も上げる。R&Dに十分に投資し、研究開発の分野でリーダーになりたい。HPのR&D投資はデルの4.5倍の大きさだ。最良のサービス、オープンなソリューションを提供し、ベスト・カンパニーになる。
 ただ、コンサルティングやサービスは大きなビジネスだが、収益が十分ではない。ソフト事業も収益向上の余地がある。パソコンやプリンターも同じだ。大企業になったが故に、社内が複雑になっている。まず、どういう構造でコストが発生しているかを分析し、仕事の内容をシンプルにする。パートナーから見てもシンプルな会社にする。

--日本法人には何を期待するか。
 メインフレームからオープンシステムに移行する需要が大きい。そのマーケットでリーダーとなるために、世界161カ国で蓄積したケーススタディーを日本法人が活用できるようにする。日本法人にはもっと高い成長を期待しているし、もっと収益をあげて欲しい。もっとシンプルになって、効率が高まれば、日本も投資すべき市場になる。

--中国市場をどうみるか。
 非常に動きが速い。ITの視点で言えば、まだ社会インフラの核となるトランザクション・システムを構築している段階だ。中国国内で調達できるITリソースは需要全体の20%に過ぎず、ビジネスチャンスは大きい。非常に開放的な市場でもある。

--人員削減に手を着けたが、どのように社員の士気を維持するのか。
 人員を減らすことよりも、仕事の内容やプロセスを見直すことに神経を集中している。
 スポーツに例えれば、ゲームに勝てば疲れは残らない。負ければ、疲れは増す。ナンバーワンになることが、士気を維持する力になる。個人の尊重や教育も大切だ。

--前任者が1月に統合したパソコンとプリンターの事業を分割したのはなぜか。
 どちらの事業も伸びており、グローバルな事業だ。イノベーションの可能性もある。ただ、技術革新やR&Dが異なるので分離した。売却はしない。HPが持っている事業を最適化することが重要だと考えている。
 IBMのパソコン事業売却は興味深い動きだが、パソコンがないと、顧客をつかむ手段が失われる。パートナーも手薄になる。包括的なプロダクトは必要だ。コンシューマー相手のビジネスから学ぶことも多い。規模の大きさは優位性を生む。

--4月にHPのCEOに就任し、中西部のNCRから西海岸に移ったが、環境はどう変わったか。
 会社と自宅との往復で、カリフォルニアの街をまだよく見ていない。オハイオとどう違うのかも分からないくらいだ。ただ、HPの社員には「グッド・ピープル」が多く、中西部の雰囲気に似ている。HPの誠実さやコミットメントを守る社風は大切にしたい。HPのバランスシートは健全であり、もっと利益を生む体質に変えていきたい。

今井 俊之=日経コンピュータ