KDDIが、システム開発費について、システムの機能量をベースに金額を決める方針を打ち出した。この4月から準備を進めており、今年度は一部の調達で採用、来年度には全面的に取り入れたい考えだ。新方針の目的などについて、同社の繁野高仁情報システム本部長に聞いた。

―システム価格を技術者の工数と単価で計算する方法では、何が問題か。
 いまの方法はIT業界で長年続いてきたが、ユーザーにとっては納得性、透明性の低いものだった。よく言われているように、システム・エンジニア(SE)1人当たり月額いくらといった人月単価の設定は、個人のスキルや役割が異なるなかで、妥当かどうかの判断が難しい。
 そのためITベンダーに対する価格の引き下げ交渉が事実上難しかった。ベンダーに人月単価の引き下げを要請しても、単価が安くスキルが低いSEに担当が変わって品質や生産性が落ちてしまう。表面的な値下げは、見えないところに付け回される。品質が落ちて保守費用がかかるとなれば本末転倒だ。
 最近、“システム費用を削減しろ”という経営からの圧力がますます高くなっている。それに答えるには、これまでのやり方では追いつかない。開発現場の担当者がITベンダーと価格交渉しやすくすることが必要だ。

―機能量をどう測るのか。
 機能量を測る方法自体は、ファンクション・ポイント(FP)法という昔からあるものを採用する。すでに、3人の情報システム部員がFP法によるデータ取得と分析に取り組み始めた。ITベンダーからもFP法で計測したデータを取得している。
 システムのデータ項目(データ・ファイル)の数や入出力機能の数によって計測した機能量(FP値)は、いわばシステムの成果物の大きさを示している。ただし、FP法には問題が多くある。成果物は機能の量だけではなく、品質や納期、複雑度などいくつかのパラメータが絡み合っている。このパラメータの調整は時間がかかるだろう。FP法以外に良い方法がないなかでは、仕方がない。
 またデータの取り方も難しい。システムの企画段階から稼働開始まで、どの時点で採ったものを基準にするのか。企画段階で取ることができればよいが、ぶれは大きい。当面は、企画段階、基本設計が終わって仕様が確定した段階、完成後、の三段階で取る。
 1社で取れるデータ件数も少ない。IFPUGなどファンクションポイントのユーザー会に参加するなどして、他社とデータを共有していきたい。

―機能量をベースにしても、コスト削減すれば品質が確保できないのでは。
 品質は、別途確保しなければならない。要件定義で、プロジェクトごとに品質の要件を細かく指定する。稼働直後の品質要件だけでなく、長期的に品質が維持できるかどうかも書き加える。高い品質を確保したいシステムは、FP当たりの価格が高くてもよいと考えている。
 いまシステム・インフラの整備を進めているが、それも品質を確保する取り組みの一貫だ。アプリケーション、データベース、プラットフォームのアーキテクチャを整理して、システム内部の可視性を高めている。こうしてシステム品質をチェックできるようにしておかないと、費用の引き下げには踏み切れない。
 FP当たりいくら、という価格付けになれば、複数のITベンダーを横並びに比較しやすい。生産性が高いSEが儲けられる形になり、ユーザーとベンダーお互いにとって納得性が高い。ユーザーとしては当然、FP当たりの単価が年々下がっていくことを期待している。

(聞き手は森側 真一=日経コンピュータ