Webサイトで動画を配信する企業が着実に増えている。1997年に設立された動画配信会社の草分け、Jストリームが昨年度のマス広告への出稿額において上位200社のサイトを独自に調査したところ、約6割にあたる123社が動画配信を手掛けていることが分かった。同社の白石清社長(写真上)は「エンタテインメント業界だけでなく、自動車や流通といった業界の企業サイトでも、動画コンテンツが標準装備になりつつある」とみる。

 昨年度以降、企業がJストリームに持ち込む動画のうち、エンタテインメント・コンテンツの割合が減り、代わりに商品販促や会社案内、人材採用といった一般的なコンテンツが増えて、全体の50%を超えた。現段階では、企業紹介ビデオやテレビCMを、Webサイトに載せただけの例が多い。しかし、白石社長は「今後は企業サイトで、ユーザー・インタフェースを改良するために動画を使う例が増える」と考えている。

 その起爆剤になりそうなのが、米マクロメディアの動画形式「Flash Video」の普及だ。広くWebページで使われているFlashアニメーションの中に動画を配置し、自然に溶け込んだ形で再生できる。Real PlayerやWindows Mediaでは専用の再生ソフトを使い、一般的にWebページと独立したウインドウで再生するのとは大きな違いだ。

 これを使えば、ガイド役の人物の動画をプレゼンテーションの静止画と重ね合わせる「PIP(Person in Presentation)」といった新しい表現が可能になる。Jストリームが協力会社と手掛けた、オリックス・クレジットのキャンペーン・サイトがその好例だ(写真下)。ユーザーの誤入力を防ぐために画面全体をFlashで制作し、申し込みフォームの横にガイド役の人物の動画を表示する工夫を凝らした。

 ただし、Flash Videoの能力を十分生かした表現ができる制作会社となると、その数は国内でも数社に限られる。Jストリームは制作会社との関係を強化し、安定的に制作スタッフを確保するために、今年4月に東北新社など5社の出資を募り、動画コンテンツ制作会社「エクスペリエンス」を設立した。

 「動画が動画として単体で使われているうちは、その普及に限界がある。しかし、Flash VideoがWebページと動画の融合を実現し、動画の新しい用途を切り開いたことで、市場はもっと伸びる」と白石社長は期待している。

本間 純=日経コンピュータ