左から広報IR部の相川雅浩氏、
情報システム部の木村康二部長、
同部の原田純子主任。
下はWebUDの画面

 森永乳業は6月6日、Webサイトのトップページをリニューアルし、高齢者や視覚障害者などに対するアクセシビリティを改善した。今まで、Webサイトの運用は広報部や各製品のマーケティング部門に任せ切りだっただけに、今回のプロジェクトを主導した情報システム部はさまざまな苦労を味わったという。同社情報システム部の木村康二部長(写真中央)に、開発の経緯を聞いた。

--なぜ、Webアクセシビリティに取り組むのか。

 我々の会社は、牛乳はもちろん、アイスクリーム「ピノ」や「アロエヨーグルト」など、多くのロングセラー製品を抱える。顧客は子供から高齢者まで幅広く、どんな人も使いやすいサイトを作る必要があった。また少数とはいえ視覚障害者も大切なお客様だ。CSR(企業の社会的責任)を果たす意味でも、Webアクセシビリティの実現は当然と考えた。

 新しいトップページでは、ユーザーの混乱を招きやすいプルダウン・メニューを廃止し、ページの左にメニュー項目を並べる、すっきりとした構成に切り替えた。また、「ALT」タグを使って、ページ内の各画像に音声読み上げブラウザ対応の説明文を加えるなどの工夫を加えた。

 リニューアルの実施については経営陣からすんなりOKが下りたものの、それから社内のコンセンサスを得るのは大変な作業だった。サイトの改善を検討しはじめたのは、Webアクセシビリティに関するJIS規格が公開された、2004年7月ごろ。今回、一応の成果を見るまで約1年かかった。

--時間がかかった理由は。

 多くの商品を抱える我々の会社では、伝統的にマーケティング部門の独立性が高い。Webサイトの中には、各商品のマーケティング部門がそれぞれの予算で運用する商品紹介ページがバラバラに存在している。たまに開く担当者会議を除けば、統一した運用管理体制はなかった。情報システム部門のWebサイトへの関わりも薄く、各部門からの技術的な相談に乗る程度。これまで、いわばカヤの外だった我々が現場を説得するのは大変だった。

 Webアクセシビリティに対応するため、各部門に声をかけヒアリングした。しかし担当者から返ってきたのは、「見栄えが悪くなるのではないか」、「手間がかかるのではないか」といった否定的な意見だった。一方で、担当役員は廊下ですれ違うたびに「いつリニューアルするんだ」とハッパをかけてきた。
 確かに、これまで作り上げたページに手を加える作業には膨大な手間がかかる。アクセシビリティを向上するには、文字の大きさを直したり、音声ブラウザでも画像の存在が分かるようにALTタグを付ける必要がある。現場が付いて来るのを待っていたら、いつまで経っても作業に着手できない。

 各部門が契約するWebページ制作会社がバラバラなのも問題だった。あわせて5、6社ある制作会社のうち、Webアクセシビリティに精通した会社は1社もなかった。これらの制作会社に勉強してもらいながらWebページを書き換えていくのでは、時間がいくらあっても足りない状況だった。

--どう解決したのか。

 プロジェクトを一歩でも前に進めるために、2段階のアプローチを取った。本当はすべてのページを書き換えるのがベストだが、現場の作業負担と時間を考えて、当初はコンテンツの改善に手を付けないことに決めた。Webサーバーにインストールするタイプのアクセシビリティ支援ソフトを導入し、ユーザーには、文字の拡大や縮小、読み上げができる専用ブラウザを配布する方法だ。

 導入を検討したのは、富士通のWeb閲覧支援ツール「WebUD」と、日本IBMの「らくらくWeb散策」。最終的には、キャンペーン・サイトのために複数のドメイン名を使い分けてもライセンス料が変わらない、WebUDを選んだ。サイトのリニューアルに一歩先駆けて、4月27日にWebUDを導入した(画面)。

 WebUDには文字を読み上げたり、漢字にフリガナをつける機能がある。導入後、予想外に多かったのは、子供と一緒にサイトを見ているというお母さんたちのメールだ。

 しかし、WebUDは専用ブラウザをダウンロードしてもらう必要があり、ユーザーの負担は大きい。あくまでも一時的な解決策だ。将来的には、一般的なWebブラウザや視覚障害者に普及した音声ブラウザでも読めるように、Webページを書き換えて行く必要がある。

--今後、どうやってWebアクセシビリティへの対応を進めるのか。

 各製品マーケティング部門が、それぞれのWebページのリニューアルのタイミングに併せてWebサイトを改善していくしかないだろう。

 そのために、各部門のWebページ制作・運用に一定の基準を設け、アクセシビリティやセキュリティなどの観点で統一管理する「Webガバナンス」の確立に向け取り組んでいる。8月をメドに、各担当者やWebページ制作会社の基準として、Webページ制作指針を策定するつもりだ。

本間 純=日経コンピュータ