「厳しい状況に追いやれば、メンバーは自然と結束する。最近、こんな考え方が目立つ。だが、それは間違っている」。デバッグ工学研究所の松尾谷 徹代表は話す。「厳しい状況になるとメンバーは離反する。そうなる前に手間とコストをかけてメンバーをチームにしておく必要がある」。

 松尾谷氏はテスト技法の教育やコンサルティングのほか、プロジェクト・チームのモチベーション維持・向上についてのコンサルティング業務も手がけている。プロジェクトの成功率を高めるポイントは「腹を割って本音を話せる環境を作ること」(松尾谷氏)だという。システム構築プロジェクトの生産性が、メンバーの意欲やチームの結束力で大きく変わるからだ。

 システム構築プロジェクトにはユーザー企業、ベンダー、さらにその下請けベンダーなど、複数の企業の様々なメンバーが参加する。異なる考え方や文化を持つメンバーの間で、どうやって信頼関係を作り上げるか。必要なのは「チーム・ビルディング」というアプローチだ。

 松尾谷氏は「プロジェクト内のコミュニケーションを円滑にするには、自己開示しやすい雰囲気が必要」と説く。日本人は特にその雰囲気の「ある・なし」がプロジェクトの成否を左右するという。「深い関係を作る必要はない。自己開示するのに必要十分であれば問題ない」(松尾谷氏)。

 かつては職場のメンバーで酒を酌み交わし、雑談することが自己開示の雰囲気を作るのに貢献していた。しかし、徐々にそうした慣習は消えつつある。むしろ“飲みニケーション”が機能していたことがかえって、それに代わる合理的な手段の創出を阻害していたとも言える。「過去“飲みニケーション”が機能していたためか、日本には『チーム作りのために手間とコストをかける』という考え方がほとんどない」(松尾谷氏)。

 システム構築プロジェクトは異なる企業の社員が参加することが多い。なおさら“飲みニケーション”に替わる手段が必要だ。松尾谷氏はその手段として、プロジェクトのメンバーがオフィスを離れた場所に集まり、1泊2日の研修を行う方法を推奨する。

 研修と言っても、ガチガチにプロジェクトの打ち合わせはしない。「気軽な、コミュニケーションのゲームをやってもらう」(松尾谷氏)。相手のよいところを発見して表現するゲームや、相手の立場になって物事を考えるロールプレイのゲームなど、いくつかのゲームを実施する。そんな程度で…、と思うかもしれないが、松尾谷氏は「1日もたつと、メンバーの雰囲気は確実に変わる」と話す。

 「いまのプロジェクト・メンバーは納期やコストなどで厳しい条件にさらされている。だからこそ、チーム・ビルディングが大切だ」(松尾谷氏)。

高下 義弘=日経コンピュータ